連載1回目の「『生理にサヨナラして分かった男女の違い』議連会長の野田聖子氏」で見たように、フェムテック市場には法制度や規制に課題がある。その壁を打ち破ろうと、厚生労働省や自民党「フェムテック振興議員連盟」、企業を巻き込みながら変革に挑む人物がいる。フェムテック製品販売のfermata(フェルマータ、東京・品川)の杉本亜美奈社長だ。タンザニアで育ち、英国やドイツの学校に通うなど国境や制度にとらわれずに歩んできた起業家の挑戦とは。

 「日本の女性が本当に必要としているかは分からない。前例がないので、市場ができたらまた来てください」

 2019年夏、杉本氏が東京・霞が関にある厚生労働省を訪れた際に言われた一言だ。杉本氏が手にしていたのは、ナプキンがなくても吸収力があるショーツ。ただ、現状の制度では「雑品」として扱われるため、「医薬部外品」にあたる生理用ナプキンや「医療機器」にあたるタンポンとは違い、生理のときに使えることがうたえず、生理用品の売り場に並ぶこともない。

 厚労省側も、意地悪をしたいわけではない。ただ、どこまで女性のニーズがあるか分からないものを、医療機器や医薬部外品として認めるわけにはいかなかった。

 フェムテック市場では、このように法律や制度面で「中ぶらりん」の製品が少なくない。潤滑ジェルや子宮脱を防ぐ機器など、海外では保険収載が認められていても、日本では承認されていないものもある。

<span class="fontBold">杉本亜美奈(すぎもと・あみな)</span><br> フェルマータ共同創業者。1988年、千葉県生まれ。父の仕事の関係でタンザニアで育つ。英ユナイテッド・ワールド・カレッジに入学。ドイツの大学を卒業後、東京大学大学院で修士号を取得。その後、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学の博士号を取得。東京電力福島原子力発電所事故調査委員会のメンバーとして被災者の調査に関わったほか、日本医療政策機構にて世界認知症審議会の日本誘致プロジェクトも担当。
杉本亜美奈(すぎもと・あみな)
フェルマータ共同創業者。1988年、千葉県生まれ。父の仕事の関係でタンザニアで育つ。英ユナイテッド・ワールド・カレッジに入学。ドイツの大学を卒業後、東京大学大学院で修士号を取得。その後、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生学の博士号を取得。東京電力福島原子力発電所事故調査委員会のメンバーとして被災者の調査に関わったほか、日本医療政策機構にて世界認知症審議会の日本誘致プロジェクトも担当。

 杉本氏が19年に立ち上げたフェルマータは、吸収型のショーツ、膣(ちつ)内に挿入するシリコン製の月経カップ、尿もれを防ぐ骨盤底筋を鍛える機器など女性のヘルスケアに関わる製品を販売する。海外から輸入したグッズを多く扱い、インターネットでの販売に加え、東京・六本木にある店舗には製品を求め女性たちが訪れる。

東京・六本木にあるフェルマータの店舗
東京・六本木にあるフェルマータの店舗

 フェルマータは化粧品や医療機器を販売するための「製造販売業(MAH)」の資格を取得しており、海外企業が開発したフェムテック関連製品の販売や、日本市場で販売を目指す海外のスタートアップ企業に製品開発や市場参入のサポートをしている。品質安全の責任者を置かなければならないなど、MAHの基準は厳しく、スタートアップが取得するのは珍しい。「MAHを持つことで、日本で流通した製品の責任を背負う」と杉本氏は強調する。

 杉本氏は海外で承認された製品を引き合いに出しながら、厚労省や、自民党内で20年10月に立ち上がったフェムテック議連に規制の整備や新しい基準の策定を働きかけている。「フェムテックの制度がないのであれば、今から作っていけばいい」。そう杉本氏が語るのは、国境や制度という概念にとらわれず、多様性のあるなかで育ってきたからだ。