電力会社は発電したら損する状況

 国家発展改革委員会は9月30日に会見し、「電力不足ではなく計画停電である。電力は秩序をもって使ってください」と説明した。計画停電のスケジュールはあらかじめ公表され、工場の操業などはそのスケジュールに合わせて行う。政府は家庭向け(民生部門)の電力供給は保証するというスタンスを取っている。

 王氏によると、中国国内でも計画停電に対して「電力不足」という言葉は使われていないという。「石炭需給はタイトだが、炭鉱の増産など措置をとっており入手できないことはない。発電側の状況を見ても電力不足とは言えない」(王氏)。

 ただ、石炭価格上昇は電力会社の経営にはダメージを与えるため、電力会社にとっては歓迎という側面もありそうだ。「石炭価格の上昇で、中国国内では発電会社は1kWh発電すると0.1元損をするという報道もあった」(王氏)。

 中国で発電事業を営むのは、5大発電会社である中国華能集団公司、中国大唐集団公司、中国華電集団公司、中国国電集団公司、中国電力投資集団公司で、いずれも国営企業だ。計画停電で石炭火力発電所の稼働を落とすことは、いまの石炭価格では経営上、プラスに働く。

 いつ中国の計画停電が終わるのかは分からない。今後を予測するのは難しいが、地方政府は省エネ目標を達成すれば、緩めていく可能性が高い。ただ、これから冬を迎え、中国北部を中心に暖房需要が増えてくる。こうした事情もあり、来年春まで計画停電が続く可能性を示唆する声もある。

中国は計画経済によって脱炭素を実現する

 つまるところ、計画停電は中国流の脱炭素推進策と言うわけだ。

 習近平国家主席は2060年のカーボンニュートラルを宣言している。2060年の目標達成に向けて、石炭の利用を減らしていく方針も明言している。

 日本総研フェローの井熊氏は、「中国は計画経済によってカーボンニュートラル目標を達成しようとしている。この点を抜きに中国の電力問題を語ってしまうと、正確な理解にはつながらない」と言う。

 ただし、中国は電力の安定供給という目標も掲げている。「いきなり石炭火力発電所を座礁資産化するようなことはしないだろう」(井熊氏)。

 脱炭素を巡る経済競争では、既に中国が欧米や日本を圧倒している。太陽光発電や風力発電、EV(電気自動車)や蓄電池などの領域では、既に独走状態だ。かねて気候変動対策に消極的な姿勢を示してきた中国が、一転してカーボンニュートラルを宣言したのは、脱炭素で世界の覇権を取れるという思いの表れだろう。

 かたや、これまで石油を掌握することで世界の覇権を取ってきた米国は、焦りを隠さない。バイデン政権が誕生するやいなや、パリ協定に復帰したのがその証左だ。だが、中国のリードは大きく、米国がどこまで巻き返しを図ることができるのかは不透明だ。

 脱炭素は全ての社会インフラを作り替え、産業プロセスを変える可能性がある。巨額のお金が動き、新たな経済競争が始まっている。脱炭素で始まった新たな経済潮流「ゼロカーボノミクス」を制すべく、中国はしたたかに動いている。

 井熊氏は、「中国の計画経済的なところを批判するのではなく、優れたところもあると認めた上で、先進国はゼロカーボノミクスに向き合わなければならない。中国脅威論で、すべて否定するのはとても危険なことだと」と指摘する。

日経エネルギーNext2021年10月14日掲載]情報は掲載時点のものです。

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