新電力の信頼失墜に繋がらないことを願う

 この冬をきっかけに、市場連動プランを導入した需要家はもちろん、市場連動プランを導入していない需要家にも新電力全体への不信感が高まる可能性がある。

 電力需給のひっ迫に関するニュースとともに、市場連動プランで電気料金が上昇することへの不安をかき立てるような記事が散見され、「大手電力は安心だが、新興勢力である新電力は心配」という論調も珍しくない。

 思い起こせば10年前、ドイツの電力自由化においてもプリペイド式の前払い決済という手法を採用していたTelDaFax社が受け取った費用を返さないまま70万人の債権者を抱えて倒産した。この事件で国民の新電力への不信感が増大。大手電力を選ぶ人が増えていった。

 日本においても、市場連動プランを契機に需要家の新電力不信が増大しないことを祈るばかりである。

 JEPXの取扱電力量は、2016年の電力全面自由化開始前と比較して飛躍的に伸びた。しかし、市場への売り札の多くを大手電力会社に頼る状況が続いている以上、火力発電所の燃料調達状況に左右される運命に変わりはない。

 事実、JEPXは夏にも冬にも、3年に1回は大きな高騰を起こしている。その度に新電力各社は「この世の終わり」であるように苦しむ。それにも関わらず、春あるいは秋を迎えて市場が安値をつけ出すと、喉元過ぎて熱さを忘れるがごとく、調達をJEPXに依存する。

 このルーティンを繰り返す新電力のなんと多いことか。そうして危機意識を薄くした最中に、得てして、こうした致命的な事故は発生する。今回の高騰は、これまでの高騰とはレベルが違う。だが、電源戦略を熟考し試行錯誤しながら実践してきた新電力は、そうでない新電力に比べて、はるかにダメージが小さい。

 市場連動プランは需要家、そして自社にも大きな負担が跳ね返ってくる恐れのある「両刃の剣」なのだ。JEPX自体の知識はもちろん、JEPXの価格高騰メカニズムや将来価格の予測などを十分に理解した新電力が採用すべき「大人のプラン」である。

 今冬の市場高騰は、新電力の需要家に負うべき責任について改めて考えることを要求する、極めて大きな試練の時なのではないだろうか。

村谷 敬(むらたに・たかし) AnPrenergy代表取締役
成蹊大学法学部法律学科卒。エナリス、エプコでの事業経験を基礎に、電力ビジネスのコンサルティングを手がける。これまでに約120社の小売電気事業者に関わり、需給管理マネジメント強化、人材育成、地域での電力を活用した事業再生などを実施。環境エネルギー技術研究所上級研究員、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構招聘研究員。
■修正履歴
2ページ目2段落目で、「2021年12月後半から現在に至る」としていましたが、正しくは「2020年12月後半から現在に至る」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2021/1/29 18:40]

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