
最近、日本では副業・兼業が話題だ。筆者は外国の日本企業論学者の視点から、働く人々の副業・兼業を認めることが大企業やその社員、そして日本経済にとって極めて重要だと考えており、今回はその理由を書きたい。具体的には、次の3つである。
- 会社が優秀な人材を呼び込める。
- 日本型のイノベーション・エコシステムの鍵となる。
- 日本が終身雇用の主な利益を維持できる。
まず、本稿における「副業・兼業」を定義しよう。もちろん、複数の仕事や、アルバイトなどをする人は日本にも以前から大勢存在している。しかし、今回の連載では、大企業の正社員など安定した職業に就いていて、副業をしている人を取り上げたい。その中で、「副業・兼業」を大きく3つのカテゴリーに分けて考えたい。
(1)ギグワーカー。伝統的な会社で、苦労も残業も少ない仕事や、一般職の仕事に携わる社員のこと。夜早く退社できるので、副業のアルバイトを引き受けられる。ご存じのように、コロナ禍の影響でも、このグループは最近急速に増えている。 英語では、このような2交代制の仕事を「to moonlight」(=夜のギグ)と呼ぶ。

(2)伝統的な兼業。セカンドオフィスを持っている専門職の人たち。2つ以上の名刺を持つ日本人は今でも多いだろう。私が知る限り、ほとんどは定年間近か、あるいは既に引退している人が多い印象がある。若い人であれば、フルタイムで仕事をしながら、副業として教授やコンサルタント、研究者をしているケースもある。
(3)総合職の兼業のニュータイプ。給与が高く、仕事量も多い終身雇用の総合職に当たる正社員が携わるような兼業だ。フルタイムで苦労や要求の多い人が、2つ目の仕事をすること。
今日は、この新しい第3のカテゴリーである「総合職の兼業」に注目したい。副業・兼業は、働き方改革の一部となった。各企業は、許可するかどうかを自分で判断し、厚生労働省の「モデル就業規則」を変更して導入している。2018年から可能になり、現在も発展中だ。
「総合職兼業」が新たなイノベーション・エコシステムに
私が最初に米国の人事・組織論の学者にこの「総合職の兼業」の話をしたとき、彼らは皆、即座に「そんなシステムは大きくならないだろう。なぜ2つの仕事を持つ必要があるのか。なぜこれが望ましいのか」といぶかしがった。この反応には非常に流動性の高い労働市場という、彼らがなじんだ米国の実情が反映されている。
米国企業は通常、2つの職業を持つことをほとんど認めない。その上、それは従業員にとっても望ましくない。米国では確実で失業不安のない仕事自体が珍しいので、多くの人は、いい仕事があれば一生懸命にその会社に集中して、仕事をうまくやり抜いて昇進し、かつ解雇されないようにするためにすべての努力を注ぎたいと望んでいる。
一方、日本では「総合職兼業」は逆の問題に対する解決策だと仮定したい。つまり終身雇用制度は、骨抜きにされ、硬直化し、コストも高くなってしまった。多くの会社にも社員にも魅力を感じなくなっていた。だからこそ、「総合職兼業」は、大企業が終身雇用の良いところを守りつつ、コストや硬直性を軽減するための非常に重要な「いいとこどり」ツールになると思われる。
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