
筆者は前回、新しいビジネスモデルをつくるための5つのステップを紹介した。
- (1)お客は誰か:顧客分類
- (2)お客は何を必要とし、当社は何を提供するか:提供価値
- (3)どうやってこの商品・サービスを届けるか:販売モデル
- (4)いくらで、どのように支払ってもらうか:価格モデル
- (5)どのぐらい利益を得るか:利益の獲得
今回は、具体的な事例でこのステップを解説していきたい。楽天のケースだ。
楽天の初期のビジネスモデル
読者にもおなじみの楽天は、1997年に創業した。創業時のモットーは 「インターネットで楽々ショッピング」だった。だが楽天は、顧客分類――「マーケットセグメンテーション」――は買い物をする人々ではなく、むしろ、電子商取引へのアクセス手段やインターネットの知識が弱い小規模店舗だと認識していた。彼らはオンライン店舗を通じて売り上げを伸ばすことができるからだ。そして楽天の主要顧客は現在も創業当時と変わらず、中小販売店の店主たちである。
これらの小規模店舗に対する楽天の「提供価値」は、オンラインショ ッピングモールの「会員」になってもらうことだった。会員として、電子商取引への簡単なアクセ スはもちろん、「楽天大学」というトレーニングサービスへのアクセスも提供された。
4番目の「価格モデル」は、当初からずっと「会費」に基づいていた。当時、月額約5万円の会費は、会員に取ってさほど高額ではなかった。顧客は、楽天というベンチャー企業に、サービスを受け取る前にお金を払っていた。そのおかげで楽天は当初からキャッシュフローを得られた。その結果、外部からの資金調達を必要としなかった。
さらに「価格モデル」の改善があった。規模が拡大するに従って、楽天は、シリコンバレー流に言えば自分たちが「テーブル の上にお金を置いている」(獲得できる利益をみすみす逃している)ことに気がついた。そこで取引ごとに一定料率の手数料を求める方式を導入した。
そのおかげで、「利益の獲得」、すなわち楽天の収入源は、月会費と売り上げの2本柱になった。そして元々のプラットフォームに、サービスや製品を追加していくことで、どんどん収益を上げていくことができた。実に素晴らしいビジネスモデルだ。筆者は外国の経営学者として、三木谷浩史氏の考えたビジネスモデルはもっと評価されてもいいと思っている。
日本の伝統的な価格設定
日本の会社の多くは、伝統的に「価格決定側」というよりも「価格受け取り側」であった。つまり、他人あるいは取引先が価格を決めてくれたのである。1950年代から70年代までの高度成長期には、国内の競争は価格よりも製品の品質だった。そのときに、公正取引委員会は多くの業界で価格協定を認めた。消費者向けの最終製品の多くは、業界団体を通じて価格を決めた。ある意味で、メーカーは業界の合意に基づいて価格を決定していた。
B2Bビジネスでも、日本企業の多くは「価格の受け取り側」であった。下請け業者は大企業の取引先に価格を決めてもらった。大企業の多くは企業系列集団の一員として、市場の状況に応じて「後決め制度」という制度に基づいて価格を交渉した。
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