トヨタ自動車も出資しているスカイドライブ。「乗り物」の戦略とビジネスモデルが急激に変化している(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
トヨタ自動車も出資しているスカイドライブ。「乗り物」の戦略とビジネスモデルが急激に変化している(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

 今回から2回にわたり、ビジネス戦略とビジネスモデルの違いについて解説しながら、それがなぜデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で重要なのかを考察していきたい。投資家向け広報(IR)上も大きな影響がある話だ。

 最近、DXが進むにつれて、トヨタ自動車が「MaaS」(モビリティー・アズ・ア・サービス)企業になるという将来像をよく耳にする。ソフトバンクなどとの新たな提携や共同出資事業といった話題もある。

 例えば、トヨタの「Woven City」(ウーブン・シティ)」というプロジェクトは、カーボンゼロのコミュニティーと「ソサイエティー5.0」をつくろうとするものである。自動運転、自動飛行車などのパーソナルモビリティーに加えて、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市である。

 これは実にわくわくするビジョンだ。それにしても、このビジョンをトヨタがこれほどまでに積極的に喧伝(けんでん)するのはなぜなのだろうか。外国人の目線で考えられるのは、おそらく投資家、証券アナリスト、消費者に対して「地ならし」をしようとしているのではないか、ということだ。トヨタは、DXにおける自社の長期的な競争戦略についてじわじわと認識してもらい、ビジネスモデルの変更に伴い、売上高、コスト、利益の構造が本格的に変わる時がくるのに備えてもらいたいのだろう。

「サービス化」とビジネスモデル

 日本の大企業の中には、すでに優位なビジネスモデルを開発している企業も結構ある。例えば、次回詳しく分析するが、 楽天のビジネスモデルは最初から素晴らしかった。しかし今は、DXとサービス化のトレンドが相まって、すべての大企業が、自らのビジネスモデルを再設計する必要に迫られている。

 トヨタや日立製作所、パナソニック、コマツ、AGC、NECなど、アイデンティティーの変更に迫られた企業も枚挙にいとまがない。こうした企業は、環境が激変する中で、製造業から、主にサービス業へと着実に移行しているところだ。

 「サービス化」が進むにつれ、彼らが作る「製品」、さらにはその販売方法も変化している。利益を得るためには、これまでと全く違った、新しい事業設計を必要とする。特に多くの企業にとっては、新しい価格モデルについて初めて真剣に考えることになる。そうは言っても、では、どうすればよいのだろうか。

そもそも「企業戦略」と「ビジネスモデル」って何?

 重要なのは、企業戦略とビジネスモデルは全く異なる経営ツールである、ということだ。多くの読者はこの概念を学んだことがあると思うが、実にさまざまな解釈がある。まず、この言葉の意味から説明したい。

 企業戦略とは、大まかに言って「勝つための計画」のことだ。何を目標にして、どうやってそこにたどり着くのか。 会社は、さまざまな事業分野における競争状態とその激しさの度合いを分析し、それに基づいて戦略スキームを提示する。そのスキームは2つの基本的な質問に集約される。

  • 1)どのビジネスで競争するのか?
  • 2)どのように競争するのか?

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