米国の経営学者の研究成果は、大企業のイノベーションに関するものが多い。『ダイナミック・ケイパビリティ戦略』(デビッド・ティース著、1997年)。破壊的技術と『イノベーターのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著、1997年)。『競争優位のイノベーション――組織変革と再生への実践ガイド』(チャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマン共著、1997年)。『オープンイノベーション』(ヘンリー・チェスブロウ著、2003年)。『両利きの経営』(チャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマン共著、2006年)――。一体、なぜなのか。

イノベーション関連書籍の原書

 それは、米国の経営学者が、米国の大企業におけるイノベーションの衰退傾向を懸念しているからである。米国の経営学者は、大企業の競争力の低下に歯止めをかけるために、大企業が持っている既存の資産を、より良い方法で活用するための新しいモデルを構築する支援をしたいと真剣に考えている。

 前回の連載では、日立製作所の経営改革を紹介しながら、日本の金融市場の「新陳代謝」を向上させている、「新たなプライベート・エクイティ産業」の素晴らしさについて述べた。しかし、金融市場の規律の導入は危険を伴うものであるため、金融化の先を行く米国から何を学ぶことができるのかについて検討することが今日のテーマである。

イノベーションはどこで起こるのか?

 イノベーションのもともとの定義は、ジョセフ・シュンペーターの「新結合」である。つまりイノベーションとは、別々の分野に存在する知識を組み合わせて、新しいものをつくることだ。スタートアップ会社はイノベーションに有利だと思っている人は多いようだが、そういうわけではない。

 実際、成功した大企業の多くは、もともと小さなベンチャー企業からスタートした。しかし、よく見ると、トヨタ自動車、パナソニック、ソフトバンク、ファーストリテイリング、そしてアマゾンやテスラなども、規模が大きくなるにつれて、よりイノベーティブになっていることは紛れもない事実だと分かるだろう。

 なぜなら、大企業が必要な資産をすでに持っているからである。つまり、これまで得た利益のおかげで豊富な資金がある。また、長い歴史があるので、人材、知識、知的財産もある。そして、研究開発と製造のための設備も有している。要するに大企業は、小さなベンチャー企業が手に入れるのに苦労するすべてを、すでに手にしているのだ。

 そこで、図を見ていただきたい。これは、なぜ米国の経営学者たちが大企業におけるイノベーションの衰退を恐れているのかを示している。これは、S&P500に入っている大手企業の平均的な「寿命」、すなわち企業が指数の銘柄になっていた年数の平均を計算したものである。

 1950年代には35年以上あった大企業の寿命は、2023年には10年を下回ると予想されている。言い換えれば、今日の米国の大手企業は、かろうじて10年間の寿命があることを示している。

S&P500株価指数銘柄企業の平均寿命
出所:7年平均. Constructed from Innosight 2018 Corporate Longevity Forecast

 経済学者は、この大企業の「短命化」を「健全な」創造的破壊の兆候と見なし、原因を外生的な「技術ショック」に帰着する。しかし、本当にそうだろうか? 

続きを読む 2/5 経済学が無視するもの

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