多くの人を救いたい人は、医師ではなく別の職業の方がいい

成毛:人間とテクノロジーの責任分担を社会がデザインしなきゃいけない時期にさしかかっていますよね。いずれにせよ、今後、テクノロジーが医療現場で存在感を増すことはあっても、小さくなることはありません。そうなると医師の役割も変わってくるはずです。例えば、「インフォームドコンセントにたけている」、「患者とのコミュニケーションがうまい」などのスキルが、ものすごく重要になってくる気もします。今ですら、医療が高度化しすぎていて、患者さんは何をされているのかよく分からない状態になっていますからね。

:『2040年の未来予測』でも言及していただきましたが、医者が分化していくのは間違いありません。新しい治療法など医療をつくる側の医師が1割、2割で、それ以外の人は患者さんに寄り添って、治療法を示すのが仕事になっていくかもしれません。

成毛:寄り添う仕事もAIに置き換わる可能性がありますよね。

:はい。寄り添う仕事も、これから10年でAIがキャッチアップできる可能性は高いと見ています。すでに今でも、チャットボットで患者さんのかゆいところに手が届くところまできている印象です。私は医療をつくる側と寄り添う側に分かれると指摘してきましたが、「新しい医療はつくれそうもないから、寄り添う医師になればいい」という覚悟で医師を目指すと、立ち行かなくなる可能性が高いとも思っています。寄り添おうと考えてみたものの、AIの方が寄り添うのも得意になったという未来もそこまできています。

成毛:医師の仕事が大きく変わるとなれば、今の、偏差値至上主義の終着駅としての医学部進学も変わってくるかもしれませんね。

:医学部に成績のいい人がみんな行くのは昭和の終わりぐらいからの傾向でしたが、この10年ぐらいでさらに顕著になっています。これは明らかに人材のロスですよ。

成毛:自分の賢さを証明するためだけに医学部に入るような人も、中にはいますよね。先日、地学の研究者たちと話をしていましたが、地学に優秀な学生がほとんどこないと嘆いていました。優秀な学生はみんな医学部に行ってしまうと。フィールドワークをするような地学の研究者がいないので、研究が先細りしてきている。これは非常に皮肉ですよね。人の命を救いたいなら、例えば、防災の研究がうまく使われれば、それこそ10万人単位で人の命を助けることができるわけですから。

:そうなんですね。実は多くの人を救いたいという学生には、今の医学部の人の育て方は必ずしも向いていないかもしれません。世の中にはたくさんの人に対して広くベネフィットを提供するような仕事と、1人の人に深くベネフィットを提供する仕事があります。医師の仕事は、後者の一人ひとりの患者さんに深く入り込む方です。ですので、多くの人を救いたい人は、別の職業の方がいいといえることもあります。

成毛:でも、そんなことまで考えて進路を選びませんからね。

:途中でどうしても適性が合わない場合も出てきます。ただ、医学部の2年生、3年生あたりで気づいても、そこからの進路変更が今の制度上、なかなか難しいのが実情です。

成毛:ほかの分野に行った方が輝けた人も、成績がいいから医学部に進んでしまい、進路変更も難しい。

:はい。今の医学部教育では、そういう人材をうまく活用できるストーリーをまだ見いだせていません。例えば、医学部以外に進学した人が、進路を変えて、医学部に行くケースは珍しくないですよね。対照的に、医学部に進んだ人がほかに行くケースはあまり耳にしません。

 進路を変えたくなったら、変えさせてあげればいいんですよ。私の先輩で、東大の医療情報部の教授がいますが、天文学者になるか迷っていたそうで、そんな人はたくさんいます。でも、ルートがないから諦める人がほとんどなわけです。これは医学部だけではないかもしれませんが、1回決まった進路でも、もう少し柔軟に変えられる道をつくることは国全体にとっても絶対にプラスになりますよ。

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