昨年春に緊急事態宣言が発令された直後、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「自らの原点に立ち返り、より正しい経営を行う」と語った。それ以降も「正しいこと」に取り組むと強調する。経営者の題目は社員に浸透しないのが常だが、柳井氏の発言には自らの行動が伴う。外からの目を意識した邪心ではないのか。それとも本気で社会を良くしようとしているのか。

「この商品は赤字でいいということはない。取り組み自体が持続可能でなければ意味がありません」。2020年9月、登壇したファストリ傘下のユニクロの担当者は、リサイクル素材によるダウンジャケットを発表した。価格は7990円(税抜き)。著名デザイナー、クリストフ・ルメール氏がデザインを手掛ける「ユニクロ ユー」の製品で、同氏の手による通常のダウンと変わらない価格帯だ。
ユニクロが商品単体で利益を出せるとわざわざ強調したのは、使っている素材をアピールするため。“原料”は店舗で顧客から回収したダウンジャケット。取り出して洗浄したダウンを詰めており、「100%リサイクルダウン」として売り出した。
「コロナ禍を経て、お客様の持続可能な成長に対する意識が飛躍的に高くなった」(ソーシャルコミュニケーションチーム)。このダウンを発売した11月には欧州を新型コロナウイルスの第2波が襲った。多くの国でロックダウン(都市封鎖)が実施されたにもかかわらず、「EC(電子商取引)だけで、店舗計画と合わせた数量が欧州で売れた」(ユニクロのメンズMD部・ウィメンズMD部部長の田中敦氏)。滑り出しは好調だ。
資源の枯渇に対処するサステナビリティー(持続可能性)の取り組みは普遍的価値として誰もが賛同するだろう。しかしサプライチェーンが未確立のリサイクル素材を使えばコストがかさむ。ダウンジャケットのリサイクルにこの規模で取り組むのは世界でも例がない。
しかもファストリは利益を確保しながら通常品と同じ価格帯で売り出した。6年前からの取り組みが実を結んだ。
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