
2020年を振り返ると物言う株主、つまりアクティビストによる日本企業への株主提案、要求が目立った年だった。アイ・アールジャパンの集計では、2020年はアクティビストが出した株主提案の案件数が11月末時点で前年比6割増の26件と過去最高になった。新型コロナウイルス感染拡大がもたらした景気悪化を反映してか、単純な株主還元を求める提案は影を潜めた。その一方、企業の経営改善につながるだろう建設的な提案もあり、全体として過去最高になったことは資本市場の発展にとってポジティブではないか。
議案の中身ではバランスシートの改善に関するものが38%、役員選解任が25%、ガバナンスが20%、事業戦略や運営が18%と多岐にわたった。
日本企業の経営が完璧であればアクティビストはいらない。しかしガバナンス、経営戦略で不十分な会社が少なくない。株価純資産倍率(PBR)も解散価値である1倍を割っている会社が多く、資産効率が悪く、設備投資や賃上げ、株主還元にも及び腰な企業が少なくない。物言う株主の介入によってそうした企業の経営が活性化するならば、その存在は「必要悪」ではないか。日本の株式市場を良くするためにもアクティビストは役立つ。これが筆者の見方だ。
ただアクティビストが増えているとはいえ、依然として日本企業は外部の株主発の改革案をすんなり受け入れることには抵抗感がある。かつてサイレント株主と批判された国内機関投資家の賛成を取り付けられないケースもまだ多い。またアクティビストによる株主提案の中には極端な増配や自社株買いを求めるなど、これは絶対通らないという無理筋の提案もあり、玉石混交なのは否めない。提案数は増加傾向だが総会で可決したものはほとんどないのが現状だ。
その中で香港のオアシス・マネジメントによるサン電子への株主提案が可決されたことが話題を集めた。サン電子は通信機器やゲームソフトを手掛ける企業だ。
変わり種提案をするアクティビスト、オアシス
話を進める前に、まずオアシスというファンドを簡単に紹介しておこう。オアシスは少し変わった、興味深い提案をたまにすることで知られる。親子上場をしている企業や対話が難しいとされるオーナー系企業にも投資をする。19年、20年には準大手ゼネコンの安藤ハザマに対して「安全衛生管理の徹底」を定款に入れるよう株主提案した。過去に重大事故が発生したためだ。17年、18年には片倉工業に「ROEを意識した経営」を定款に盛り込むよう提案した。いずれもそれぞれの株主総会で否決された。わざわざ定款に入れることではないと他の株主が判断したためだろう。ただ一石を投じる意味合いは大きい。企業として当たり前のことをあえて提案されたことで、その後の経営陣の意識改革にもつながる効果が期待できる。実際、片倉工業は経営トップが代わったことが大きかったが、事業再編など構造改革に踏み切った。オアシスも経営方針の転換を高く評価している。
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