株式市場では日経平均株価が2021年2月に3万円台に乗せたが、足元では米長期金利上昇への警戒感から株価が乱高下する場面もあり、市場には警戒感がくすぶる。気になる今後の株価動向について考えてみよう。
まず30年ぶりの高値を付けたけん引役は、企業業績の急回復にあるだろう。東証1部の2020年度第3四半期の実績を直近の市場予想平均である「コンセンサス予想」と比べると、売上高は3.1%、営業利益が36.8%、経常利益が52.5%、純利益が59.8%とそれぞれ大幅に上回った。自動車などの挽回生産に加えて、コロナ禍で企業が取り組んだ費用削減の効果が想定を上回ったことが要因として挙げられる。
米国の10年国債利回りの上昇に反映されるように、世界の景気見通しは徐々に良くなり始めている。足元では金利上昇は株式相場の波乱要因になっていて、落ち着きをいつ取り戻すか見定めたい。ただ、2月まではマクロ環境の好転が株式相場に投資マネーを呼び込んできた。とりわけボトムアップの企業業績の持ち直しが、外国人投資家が日本株買いに走った理由になった。
外国人投資家は日本を代表する製造業の業績を吟味し、ブルーチップ銘柄の業績変化は彼らが日本株の持ち高を動かすきっかけになりやすい。今回はソニー、トヨタ自動車などによる通期業績の上方修正が「ポジティブサプライズ」となり、日本株買いを誘った。
日経平均株価3万円はバブルか否か
予想を大幅に上回る決算発表を受けて、みずほ証券では東証1部のトップダウン業績予想で、2020年度の経常利益を、従来の前年比24.5%減から18.0%減へ、純利益を22.9%減から14.7%減、1株当たり純利益(EPS)を 61.4から67.5 ポイントに上方修正した。また2021年度をそれぞれ33.3%増→37.3%増、45.8%増→50.6%増、89.5→101.6ポイントへと引き上げた。
なにしろ日経平均が1990年以来となる30年半ぶり高値を付けただけに「バブルか否か」と議論する世間の心情は理解できる。では、日経平均3万円は割高なのか。業績や株価指標から考えてみよう。2021年度予想EPS×PER(株価収益率)19倍、NT(日経平均/TOPIX)倍率15.5倍で日経平均は2万9936円になるので、3万円の日経平均は業績面から正当化される。PERも20倍未満なので、バブルとは言えないだろう。
次の焦点は2020年度の通期決算の発表のタイミングとなる。21年4~5月の決算発表後は2022年度の業績を織り込む展開になる。そのため、2022年度予想EPS×PER19倍、NTレシオ15.5倍で計算される日経平均3万2000円程度を、年内の高値予想にした。テクニカル的に2020年1~3月の下落幅の2倍上昇すれば、日経平均は3万1600円になる。
年前半は、(1)コロナ感染の減少、(2)4~5月の決算発表で株主還元の発表も増加、(3)コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂で、ガバナンス改善の期待が高まる、などを背景に堅調な相場展開が続き、5月頃に3万2000円まで上昇するのではないか。
足元では不安定な株価動向だが、企業決算をきっかけに上昇基調となって年前半に高値を付ける。ただその後、年後半は調整局面に気をつけなければならない。
年後半に調整リスク、日経平均は年末に2万7000円
21年夏の東京五輪・パラリンピックは無観客開催を前提にするが、9月末に任期切れを迎える次期自民党総裁選で、菅義偉首相が再選されるかどうかは分からなくなってきた。東京五輪後も菅内閣の支持率が低迷していれば、菅内閣の生みの親ともいえる二階俊博幹事長を中心に、自民党総裁を代えて、今秋までに行われる衆院選を戦おうという機運が出てこよう。
ただ、政治の波乱が調整要因と指摘したいわけではない。むしろ、株価動向にそう大きく影響を与えない可能性がある。内閣支持率と日経平均が連動している時代もあったが、20年9月に誕生した菅内閣においては、内閣支持率の低下とともに、日経平均が上昇してきた。このため、日本の政治情勢が株式形成に与える影響は限定的といえるかもしれない。
では、筆者が年後半の株式市場の調整を予想する理由は何か。(1)2021年度の予想増益率低下に伴う予想PERの低下、(2)2022年にかけた米連邦準備理事会(FRB)の大規模な金融緩和の縮小(テーパリング)見通し、(3)日米の財政支出一巡に伴う「財政の崖」懸念である。2021年末の日経平均予想は、2022年度予想EPS×PER16倍、NT倍率15.4倍に基づいて2万7000円と予想する。先ほどから何度か指摘したが米国の10年国債利回りが上昇傾向で市場に警戒感が出てきている点は注意が必要。そのためハイテク株の代表格である米ナスダック市場のグロース株の上値が重くなり、NTレシオも15.5倍が当面の上値と考える。
景気の先行きは不透明で、市場でも株高バブル説がくすぶる
業績面では費用抑制の鈍化が懸念される。2020年度第3四半期に業績を底上げした費用抑制には一時的なものと、永続的しそうなものに分かれるからだ。春にコロナ感染が減れば、企業の国内交通費や顧客との交際費が増える一方、コロナが収束しても、海外出張はズーム会議などで代替したままの企業が多いだろう。2021年度は企業業績が大きく改善するため夏のボーナスも増えそうだ。挽回生産が一巡して、21年4~6月には生産回復の勢いも落ちると予想される。
コロナ禍という異常事態において、金融緩和や財政出動が実体経済や株価水準を支えてきたが、こうした流れが変わるリスクには慎重にならざるを得ない。緊急的な財政措置が切れて経済に悪影響を与える「財政の崖」が米国や日本で強く意識されるようになれば、株式相場が弱含む可能性がある。
FRBは目下、コロナの影響から経済や金融市場を守るために量的緩和を実施している。ワクチンや景気対策で経済が安定すれば、2022年にも量的緩和を縮小して買い入れ資産を減らすなど、「テーパリング」の段階に入るとみられる。まだ当面先とみられるが、経済指標が良くなればテーパリングについての議論が始まるとみられ、FRBによるコメントや発表には投資家は気をつけなければならない。
ここまで筆者が考えるメーンシナリオについて述べてきた。さて、可能性は低いとみられるが、「日経平均4万円説」についても少し触れてみよう。一部には年内に日経平均が1989年末の史上最高値3万8915 円87銭を抜くとの声もある。2022年度業績予想ベースでPERが25倍に上昇するだけで、日経平均は1989年末の史上最高値に達する計算になる。我々は東証1部の純利益変化率が2021年度に5割増益の後、2022年度に1桁台へと減速すると予想しているが、2022年度も2桁増が続くのであれば、PER21倍でも史上最高値に近づくことになる。
一方、投資家が頭の片隅に置いておくべきネガティブ・リスクシナリオは何だろうか。(1)米国10年国債利回りが2%を超えて上昇して、ナスダックが急落、(2)変異ウイルスの広がりで、コロナワクチンが効かないことが判明、(3)菅政権が崩壊すれば、次期衆院選で自民党が下野し、立憲民主党+共産党の連立政権が誕生する展開などが挙げられよう。こうした波乱の事態に陥れば、株式相場の大幅な調整も覚悟しなければならなそうだ。
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