リーダーに期待されることは数多いが、最も優先すべきことは何か。いい監督とは、いい社長とは。無数に答えがありそうな問いに、アシックスの廣田康人社長と広島東洋カープを3連覇に導いた緒方孝市前監督が挑んだ。

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廣田康人・アシックス社長(以下、廣田):緒方さんは2015年に広島東洋カープの監督に就任されました。初年度、優勝できると思っていましたか。

緒方孝市・広島東洋カーブ前監督(以下、緒方):前年に久しぶりに3位になっていて、そろそろ花開くんじゃないかというタイミングでした。それに、米メジャーリーグから黒田(博樹)が、阪神タイガースから新井(貴浩)が戻ってくるという“大型補強”もあったので、正直、その気はありました。

 でも、結果はご存じの通りBクラス。監督はどんな準備をすればいいのか、ヘッドコーチとして前任の野村謙二郎監督の隣にいたにも関わらず、わかっていなかったのです。

(写真:行友重治、以下同じ)
(写真:行友重治、以下同じ)

廣田:立場によって、見える景色は違いますよね。

緒方:そうなんです。でも、失敗をしたことで、何が足りなかったのかを知ることができ、知ったからこそ準備できるようになり、決断を下せるようになりました。リーダーの仕事は決断だと思います。決して、多数決などではものごとは決められません。

廣田:まったくその通りですね。

緒方:ただ、私は失敗しても翌年にチャンスをもらえたけれど、社長は失敗できないのではないですか。社長として1年1年が勝負でしょう。

廣田:確かに1年契約を更新し続ける身ですが、失敗そのものというよりも、言い訳が許されないと思います。昔、「社長のシャは謝罪のシャ、副社長のフクは幸福のフク」と聞いたことがありますが、その通りなのかもしれません。

 アシックスは17年に、ニューヨークの5番街に米国で初の旗艦店をオープンしたのですが、20年末で閉じました。新型コロナウイルスの影響もあったのですが、社員に対して経緯を隠すことなく説明し、ミスを認めました。このときは、社員から思いのほか大きな反響がありました。緒方さんも「あれは自分のミスだった」と表明することはありましたか。

緒方:そのために、試合後のミーティングを翌日にしていました。当日だと興奮しているので、冷静な判断ができないし、適切な言葉も選べないと思ったからです。そうして翌日に「別の作戦で行くべきだった」といった話をしていました。

廣田:ほかに、多くの部下を抱える立場で気を付けていたことはありますか。

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