米大リーグでMVPを獲得した大谷翔平選手にシューズやグローブを提供するアシックスの廣田康人社長は、総合商社の三菱商事出身。畑違いの企業のトップに就いて、最も驚いたのは英語が半ば社内共通語だったことだという。広島東洋カープ前監督の緒方孝市氏がコロナ禍の影響などを聞いた。

本シリーズ
3年連続盗塁王は、アシックスさんのおかげでした

廣田康人・アシックス社長(以下、廣田):さきほど、鈴木誠也選手がメジャーリーグに挑戦することが決まったとニュースになっていましたね(編集部注:この対談は11月中旬に実施しました)。

緒方孝市・前広島東洋カープ監督(以下、緒方):え! 本当ですか。ということは、またアシックスのシューズを履いてメジャーで活躍する選手が増えるということですね。

廣田:しっかりサポートしていきます。誠也選手は、緒方さんが育てた選手の一人ですよね。

緒方:私がコーチ時代に入団してきた選手です。挑戦すると決めたのなら、頑張ってほしいですね。やっぱりちょっと、最初から他とは違いましたよ。

<span class="fontBold">廣田康人[ひろた・やすひと]</span><br />アシックス代表取締役社長COO(最高執行責任者)。1956年生まれ、名古屋市出身。80年に早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事入社。89年、欧阿三菱商事(ロンドン)赴任等を経て、14年代表取締役兼常務執行役員コーポレート担当役員。17年関西支社長を兼務後、18年にアシックス入社。同年3月から現職。趣味は、演劇・映画・落語の鑑賞とランニング。フルマラソンの自己ベストは61歳で記録した3時間53分。現在も製品テストを含め月100kmは走る。(写真:行友重治、以下同じ)
廣田康人[ひろた・やすひと]
アシックス代表取締役社長COO(最高執行責任者)。1956年生まれ、名古屋市出身。80年に早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事入社。89年、欧阿三菱商事(ロンドン)赴任等を経て、14年代表取締役兼常務執行役員コーポレート担当役員。17年関西支社長を兼務後、18年にアシックス入社。同年3月から現職。趣味は、演劇・映画・落語の鑑賞とランニング。フルマラソンの自己ベストは61歳で記録した3時間53分。現在も製品テストを含め月100kmは走る。(写真:行友重治、以下同じ)

廣田:身体能力が、ですか?

緒方:それもありますが、一番は性格です。あれほど負けず嫌いな選手はいないですよ。いいピッチャーはなかなか簡単には打てません。だから頑張ろう、練習しようとなるのですが、誠也の場合は本当に悔しがるんです。それが、タオルをぐっと噛みしめたりと態度に出るほどです。とにかく負けたくないという気持ちが強くて、それがあるから、あれだけの勢いで成長できたのだと思います。

廣田:それだけの選手だから“神った”んでしょうね。

緒方:まぐれという言葉は選手に失礼なので使いませんが、でも、そうかもしれません。それに、普通では起こりえないことが起こるのがスポーツだと思います。

<span class="fontBold">緒方孝市[おがた・こういち]</span><br />1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。野球評論家。元プロ野球選手、同監督。1986年に広島東洋カープからドラフト3位指名を受け入団。2008年まで主に外野手として活躍し、3度の盗塁王に輝き、堅守の選手に贈られるゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。09年に現役を引退後もチームに残り、コーチとして後進の指導に従事。15年に監督に就任すると16年から18年にかけてチームを球団史上初のリーグ3連覇に導いた。19年に退任。
緒方孝市[おがた・こういち]
1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。野球評論家。元プロ野球選手、同監督。1986年に広島東洋カープからドラフト3位指名を受け入団。2008年まで主に外野手として活躍し、3度の盗塁王に輝き、堅守の選手に贈られるゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。09年に現役を引退後もチームに残り、コーチとして後進の指導に従事。15年に監督に就任すると16年から18年にかけてチームを球団史上初のリーグ3連覇に導いた。19年に退任。

廣田:確かに、私たちが契約している選手が、まぐれのような活躍をすることはそれほどありません。でも、タイミングはあります。たとえばトップアスリート向けのランニングシューズ「METASPEED」も、東京オリンピック・パラリンピックに間に合ったことで、選手たちが結果を出してくれました。

緒方:経営で神ることはないのですか。

廣田:ないと思いますね。(しばらく考えて)ないです。

緒方:廣田さんは長らく三菱商事に勤務されていて、請われて18年にアシックスの社長に就任したと伺っています。アシックスの社員からすると、外から社長がやってきたことになりますが、廣田さんはどんな気持ちで着任したのですか。

廣田:私は昔から走るのが好きで、アシックスのユーザーだったんです。

緒方:マラソンのベストタイムは4時間を切るそうですね。

廣田:それもあって社長の話をいただいたときは興味を持ちました。ただ、私に期待されていることはシューズやグローブを作ることではないんですね。三菱商事とアシックスでは事業の形態は違うけれど、経営の手法は共通するだろうと思っていました。もちろん、全く知らない人ばかりのところにきたので、私がどんな人間かを知ってもらう必要があるし、私も社員のことを知る必要がありました。まずはコミュニケーションの「接地面積」を広くしたいと思っていました。

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