殺虫剤業界で国内3番手のフマキラーは、東南アジアを中心とした海外で存在感を高めている。気候変動により生息域が変化し、これまでは不快なだけだった虫が危険な存在へと変わろうとしているのだ。プロ野球広島東洋カープを3連覇に導いた緒方孝市前監督が、地元広島を代表する企業を率いる大下一明社長に世界での戦い方を聞く。

これまでの対談記事
(1)プロ野球監督と跡継ぎは「演じなければ務まらない」
(2)看板商品も4番打者も「寿命」がある だから育てるしかない

緒方孝市・前広島カープ監督(以下、緒方):フマキラーは家庭用品や園芸用品なども手がけていますが、売り上げの7割は殺虫剤が占めていますよね。ですから、やはり殺虫剤、虫についても詳しくお聞きしたいです。

 先ほど、約50種類、300万匹もの虫を飼育しているここブレーンズ・パークにある開発部門で、蚊やハエ、ゴキブリなど、そのほんの一部を見せていただきました。説明を聞いて驚いたのですが、北海道には、我々のよく知っている黒い体に白い斑点のある蚊はいないんだそうですね。

(写真:橋本 正弘、以下同じ)
(写真:橋本 正弘、以下同じ)

大下一明・フマキラー社長(以下、大下):ヒトスジシマカですね。戦後すぐは関東にもいなかったのですが、どんどん北上して、2016年に青森で定着が確認されました。クロゴキブリも、北海道と長野の一部では今も確認されていませんが、私が入社したばかりの頃は、利根川を越えるとゴキブリ用の殺虫剤は商売が成り立ちませんでした。

緒方:いなかったのですか。ということは、この何十年かで地球はだいぶ暖かくなっているということですね。年々、暑くなっていることは私も実感しています。

大下:インドネシアの蚊は、日本の蚊の5倍強いんですよ。

緒方:5倍も?

大下:薬剤への耐性が高いのです。世界中にはいろんな蚊がいて、新たな国に進出する度に分析から始めることになります。でも、強い蚊こそ倒さなくてはならないんです。2016年のビル・ゲイツ財団の発表数字を基にすると、人間を殺している生物の2番目は人間ですが、1番は蚊です。マラリアやジカ熱、西ナイル熱、そしてデング熱など、蚊が媒介する感染症は年間約72万5000人の命を奪っているからです。

緒方:72万5000人というのは、世界での話ですよね。

大下:そうです。ただ、これは統計が取れている範囲に限った数字で、実際には、おそらく倍以上の方々、150万から300万人の方が、蚊によって亡くなっていると思います。

緒方:広島県の人口が約280万人ですから、それ以上の方が蚊のせいで命を落としているかもしれないんですね。

大下:対岸の火事ではありません。日本でも2014年にデング熱の国内感染者が見つかりました。日本は安心とは言えなくなってきているんです。おそらく緒方さんはこれまで、蚊やゴキブリのことを不快だと思われてきたでしょう。

緒方:マンション住まいの頃はあまり気になりませんでしたが、戸建てに住むようになって悩まされるようになりました。ゴキブリが出れば退治役はなぜか私ですし……。夏場、暑い時間帯を避けて犬の散歩に行くと、蚊柱も気になります。

大下:これからは日本でも、虫はかゆかったり痛かったりで不快なだけでなく、命に関わる問題になってきます。すぐそこまで、そういう未来が来ているんですわ。

続きを読む 2/3 国内3番手に甘んじるつもりはない

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