広島東洋カープ緒方孝市前監督とフマキラー大下一明社長の対談。前回の「プロ野球監督と跡継ぎは『演じなければ務まらない』」に続く今回のテーマは人材育成とコミュニケーション。監督と選手、社長と社員の間のコミュニケーションは、そのやり方次第で組織を強化も弱体化もさせる。またコミュニケーションの方法には、直接的なものも間接的なものも、言語化されたものもそうでないものもある。
緒方孝市・前広島カープ監督(以下、緒方):フマキラーは大下さんが社長に就任して5年後の2010年に、芳香剤で有名なエステーと資本提携し、エステーがフマキラーの筆頭株主になっていますね。その直前には、アース製薬から買収を持ちかけられ、拒否したと聞いています。なぜですか。
![<span class="fontBold">緒方孝市[おがた・こういち]</span><br>1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。野球評論家。元プロ野球選手、同監督。1986年に広島東洋カープからドラフト3位指名を受け入団。2008年まで主に外野手として活躍し、3度の盗塁王に輝き、堅守の選手に贈られるゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後もチームに残り、コーチとして後進の指導に従事。15年に監督に就任すると16年から18年にかけてチームを球団史上初の3連覇に導いた。19年に退任。(写真:橋本 正弘、以下同じ)](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00224/071400008/p1.jpg?__scale=w:350,h:519&_sh=0500b02507)
1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。野球評論家。元プロ野球選手、同監督。1986年に広島東洋カープからドラフト3位指名を受け入団。2008年まで主に外野手として活躍し、3度の盗塁王に輝き、堅守の選手に贈られるゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後もチームに残り、コーチとして後進の指導に従事。15年に監督に就任すると16年から18年にかけてチームを球団史上初の3連覇に導いた。19年に退任。(写真:橋本 正弘、以下同じ)
大下一明・フマキラー社長(以下、大下):アースというのは、強力なライバルなんです。国内の殺虫剤市場では最大手がアースで、次がキンチョーブランドの大日本除虫菊で、我々は3番手です。戦っている中で、開発や営業でバッティングすることが多々ありました。
我々には、他社に先行して、電気式やワンプッシュの虫よけという商品を世に出してきたという自負があります。ただ、すぐに追いかけられるんです。商品を売るときには、販売店と取り決めた棚割りに従って我々は商品を並べます。ところが、気づいたらうちの商品が並んでいた場所が占有されていたということも珍しくありません。切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲ですが、スタイルがなかなかマッチしないと判断しました。

フマキラー社長。1958年生まれ、広島県出身。フマキラーの創業家に生まれ、81年に日本大学商学部を卒業し、稲畑産業へ入社。84年にフマキラー入社。営業本部長や常務取締役を経て、2005年4月より現職。同社のCMでTOKIOのメンバーと共演している
緒方:絶対に一緒になるまいと。
大下:そうです。読売ジャイアンツから買収を持ちかけられて、カープはその話に乗りますか? 戦い方、それから人材についての考え方も全然違いますよね。私は、FA(フリーエージェント)制度が導入されたとき、カープはもうダメだと思いました。
江藤(智)さんが1999年シーズンの終わりにジャイアンツに行ったときには、本当にショックでした。ただ、根拠はないものの、いつ頃からか、緒方さんが監督になったらカープを優勝させてくれるんやないかなと思っていました。本当です。
緒方:ありがとうございます。私は、川口(和久)さんが移籍したとき(1994年オフ)にチームに衝撃が走ったのを覚えています。トレードであれば補強をし合い、チームの活性化も期待できると理解できるのですが、当時は金銭補償が主流だったこともあり、一方通行で戦力をそがれるだけですから。
コーチ、監督時代にも何人かがFAでジャイアンツに移籍していきました。おそらく、FAによって補強をすると同時に相手の戦力をそぐというのが、ジャイアンツの戦略なのでしょう。ですから、3連覇の後、丸(佳浩)が移籍して優勝を逃したときには、その戦略にまんまとはまったようで本当に悔しく、絶対に見返してやりたいと思いました。
チームでは毎年、人の入れ替わりがあります。一人の選手の寿命は短いので、チーム力を落とさずに何年も戦い続けるには、主要メンバーはゆっくりとしかし確実に入れ替えなければならないからです。そうして選手が入れ替わっても自分たちの野球ができるチームが強いチームだと思います。
大下:本当にそうですね。営業部門は毎シーズン、今年はこれが1番バッター、4番はこれと商品で打順を組むようにして販売戦略を立てています。
緒方:ただ、4番だけは毎年は入れ替わらないでしょう?
大下:そうなんです。1~2年では入れ替わりませんが、今の4番に頑張ってもらいながら次の4番をどう育てるかには、いつも頭を悩ませています。しかし、商品の打線で戦力をそがれた経験はまだありません。やられた側は、見返すためにどんなことができますか。
緒方:戦力をそがれる側は、ドラフト戦略を変えざるを得ません。本来であれば投手が欲しかったとしても、主力野手が出て行けば方針転換せざるを得なくなります。カープの場合は、外国人選手についても、実績のある選手を獲得するのは難しいですから、育成を前提に日本で適応し成長することが期待できる選手を選ぶことになります。
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