前回、「プロ野球も株式市場も『トラブルは必ず起きる』」では、システムトラブルや選手のケガなど、トラブルとどう向き合うかを語りあった大阪取引所社長の山道裕己(やまじ・ひろみ)氏との対談。山道氏には野村証券で資金調達やM&Aを手がけてきた経験がある。そこで培ったチームに対する考え方とは。選手、選手兼コーチ、コーチ、そして監督としてプロ野球の世界を経験した緒方孝市氏と語り合う。

緒方孝市・前広島カープ監督(以下、緒方):山道さんは、もともとは野村証券にお勤めだったそうですね。

山道裕己・大阪取引所社長(以下、山道):2013年に、大阪証券取引所と東京証券取引所が経営統合し、日本取引所グループが誕生したのに合わせてこちらへ移るまで、36年間勤めました。うち半分は海外勤務です。最も長かったのは英国で10年、次は米国で8年です。米国ではニューヨーク勤務だったので、ヤンキー・スタジアムにも、メッツの旧本拠地のシェイ・スタジアムにも何度も観戦に行きました。親戚がロサンゼルスにいたので、ドジャー・スタジアムへも足を伸ばしましたよ。海外駐在時は仕事だけでなく、異なる文化に触れることを楽しんでいました。

緒方:かなり野球がお好きですね。

山道:はい。実は小さい頃は野球部で、2番ショートでした。その後は、ハンドボールをやったり、合気道をやったりしてきました。知性派を装おうとは思っているのですが、体育会系でもあります(苦笑)。

緒方:私も、カープという球団であったこともあり、かなり厳しい指導を受けてきました。そういう時代でしたし。山道さんは仕事も体育会系のスタイルで学ばれたのですか。

山道氏(左)は4月1日に東京証券取引所の社長に就任予定。右は緒方氏(写真:行友重治、以下同)

山道:身体と頭を動かして人に働きかけるという点では、スポーツと仕事には通じるものがあると思います。また、スポーツの経験は他人の心身の痛みを理解することにもつながるとも思っています。これがチームプレーをする上で大切ですよね。

緒方:今は大阪取引所の社長で、4月1日からは東京証券取引所の社長、つまりトップです。これまで、プレーヤーから組織のトップへと立場を変えられてきたわけですが、それぞれの段階での切り替えはうまくいきましたか。

 実は、私自身は、非常に苦労をしました。プロ野球選手はいわば個人事業主ですから、チームの勝ち負けも大切ですが、それ以上に自分自身の成績を大切にしています。チームが優勝したとしても、そこに自分が貢献できず評価もされなければ何も得られません。長年、そうした考え方でプレーしてきたので、指導する側になってもなかなか切り替えられなかったのです。

若手を育てると自分の立場が危うくなる

山道:私のいたポジションは、そこまで個人主義ではなかったですね。会社勤めですから、まずは割り当てられた仕事をこなすところからスタートし、知識や経験を積んで仕事の幅を広げていきます。ただ、それでも1人でできることは限られているので、常にチームで仕事をしているという感覚はありました。

 特に私の場合は、資金調達やM&A(合併・買収)など、チームでしかできない仕事をしていたからかもしれません。野村証券は社員数が2万人を超える大きな組織で、大きいから任せてもらえる仕事もあるのだということは実感していました。

 支店などの個人営業の最前線では、もしかしたらプロ野球の選手に近い意識の人材がいるかもしれませんが、自分がいたところはチーム主体でした。自分自身の仕事のレベルが上がり、課長職くらいになると、自分もプレーをしながら下にいる人たちにどうやって成長の機会を与え、育てるかにも頭をひねるようになります。本人と話してみて何ができないのかを考え、それを乗り越えるところでうまくちょっと支えてあげる。これがうまくいくと本人にも自信がつきチーム全体の底上げができて、結果的に自分にも余裕が生まれ、さらに視野を広げることができます。取引所の経営も全く同じです。

緒方:なるほど。私は2年間、選手兼任コーチを経験していますが、コーチとして若手に教えて育てれば、選手としての自分の立場を危うくすることにもつながるので、気持ちの持ち方に苦労したのを覚えています。

 その後はコーチ専任になりましたが、では専任なら教えられるのかというとそうではなく、最初の年は失敗の連続でした。「こうすればできるのだからやりなさい」「どうしてできないんだ」と、教え方も一辺倒で、選手に歩み寄っているつもりでも、距離が縮まらないのを感じていました。

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