健康、定年退職、年金がポイント

高齢者の就労意欲を高める上でのポイントはなんでしょうか。

清家氏:私の長年の研究対象は高齢者の労働供給でした。高齢者の労働供給関数を計量経済学的に推計し、その就労を規定する要因は何かということを分析してきました。その結果、はっきり分かったのは3つの大きな要因です。それは、「健康」「定年退職制度」「年金制度」です。

順番に詳しく伺えますか。

清家氏:高齢になっても働き続ける上で最も大きな要因は健康です。健康寿命を延ばす政策をもっと強力に進めていく必要があります。加齢に伴う支障が顕著になってくるのは、やはり健康寿命を超えた頃。個人差はありますが、平均では70代半ば以降からです。加齢に伴う支障が表れる年齢をできるだけ先に延ばすためにも、生活習慣病の予防のような地道な取り組みを積み上げていくことはきわめて大切です。

 定年退職と、それに伴う賃金低下も大きな要因です。定年そのものも退職のきっかけになりますし、定年による賃金の大幅な減少も大きな要因になる。今の制度では、60歳定年の後に再雇用になると、賃金が3~4割も減少しますが、これは当然ながら就労意欲を大きく低下させます。定年後再雇用にスムーズに接続できるよう、もう少し早い段階から年功賃金のカーブを緩やかにする必要があります。

年功賃金の見直しは徐々に進んでいますね。

清家氏:厚労省の賃金構造基本調査を見ると、1980年代ぐらいからの定年延長に合わせて、賃金カーブはだんだんフラットになってきています。こうした流れをさらに進めていけばいいのだろうと思います。

 参考になるのは中小企業です。中小企業の中には、定年がない、あるいは定年を65歳以上に定めている会社も実はたくさんあります。もちろんその最大の理由は、大企業のように若い人を簡単には採用できないからです。ベテランに活躍してもらわないと会社が回っていかないので、定年を延長したり廃止したりしている。

 そして年功賃金の傾きも大企業よりずっとフラットです。これも若い人を集めるためですが、初任給から30歳ぐらいまでは大企業とほとんど差がありません。大企業の場合はその後も年功的に賃金は上昇していきますが、中小企業の場合は40代前半ぐらいでかなりフラット化していくわけです。

 このように、中小企業は中高年の人に働き続けてもらってもコストが高くならないような賃金構造になっていると同時に、プレーイングマネジャーが当たり前です。少ない人数で仕事を回しているので、管理職の椅子にただ座って仕事をしているというわけにはいかない。比較的フラットな賃金制度の下で、一人一人の持っている能力を活用し続ける。こういう仕組みの下で、中小企業では60代の雇用も比較的スムーズに進んでいるわけで、大企業も大いに参考にすべきです。

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