明らかになった定年後再雇用のミスマッチ
次に回答者のうち、定年後は就労していないケースを見ていこう。半数近く(45.9%)が就労意欲はあったと答えている。
続けて、働きたかったのに働かなかった理由をたずねた。
「培った経験やスキルを生かせる仕事が見つからなかった」との答えが33.3%と最も多く、「求人に応募したが、採用されなかった」との回答も25.0%とそれに続いた。高齢人材の雇用をめぐるミスマッチの一端が明らかになったと言えそうだ。
定年前社員の7割が「高齢社員は戦力」と評価
ここからは、定年をまだ迎えていない層(定年がない会社に勤務をしている人も含む)の回答を見ていこう。
定年後再雇用された社員の働きぶりについて、7割近く(「とても戦力になっている」「戦力になっている」を合わせて65.7%)が戦力として評価している。「足手まとい」「とても足手まとい」との声は計2.7%にすぎなかった。高齢人材が職場で活躍しているという現状は、さらなる活用を考えていく上で朗報だろう。
将来、定年を迎えた後に働く上での不安についても聞いた。
「培ってきた経験やスキルが時代に合わなくなる」という不安を挙げる声が、すでに定年退職して実際に再雇用されている人に比べて多いのが特徴だ。定年をまだ迎えていない人では31.8%に上るが、実際に定年後に働いている人では14.6%だった。漠然とした不安を抱えている姿が見て取れる。
最も多かったのは「体力の衰え」への不安で6割に迫った(59.5%)。「記憶力や学習能力の衰え」(51.2%)、「気力の衰え」(48.9%)も多い。「老い」に伴う心身の活力低下への不安が大きいことが分かる。
「70歳定年制」には過半数が賛成も
最後に、今回アンケート調査を実施した40~74歳までの対象者全員に共通する質問の回答を見てみよう。
いくつまで働きたい、あるいは働くことになりそうかという問いかけに対しては、「65~69歳」との答えが全体の38.4%を占めて最も多かった。「70~74歳」も16.9%いる。回答者の年齢別にクロス集計をしてみると、年齢が上がるほどより高い年齢まで働きたいと答える傾向があった。当初は加齢に伴う様々な不安があっても、実際に就労をする中で自信がついていくのかもしれない。
70歳まで就労機会を確保するよう企業に4月から努力義務が課せられることになり、将来的な「70歳定年制」も現実味を帯びている。さらなる定年延長をめぐる賛否をたずねたところ、賛成が半数を超えた。
ただし、回答者から寄せられたコメントを読んでいくと、「能力があり雇用継続を望む人が働き続けられる社会になるのはいいことだが、歳をとって心身に不安を抱えながらも働き続けなければ生計が成り立たないというのは問題では」(エンターテイメント産業、40代前半女性)、「働き方の多様性が重視される時代で、全員に強制すべきでない。シニア人材の活用が必要ならば、希望者を手厚く処遇すべきだ」(建設・不動産、60代前半男性)など、年齢のみを理由にした一律の対応には慎重な意見も目立った。
また、「若者に比べて高齢者は感性やスピード感などの面で劣るように思う。営利企業に努力義務とはいえ高齢者雇用を求めるのは国の怠慢」(輸送用機器、50代後半男性)といった厳しい意見もあった。
次回は人事管理のエキスパートで、『高齢社員の人事管理』の著作もある学習院大学名誉教授の今野浩一郎氏のインタビューを掲載する。定年後再雇用に向けた高齢人材のマインドセットをめぐり、今野氏は「部下の評価もしなくていいし、部門の成果責任負わなくていい。そういう気持ちの切り替えをして、一兵卒として頑張ればいい」とアドバイスする。お見逃しのないよう、シリーズを「WATCH」してください。
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この記事はシリーズ「70歳定年 あなたを待ち受ける天国と地獄」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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