定年退職後の再雇用では給料が下がり、責任も減る。バリバリ働くより、むしろゆっくり人生を楽しみたい――。定年後はそんな働き方を理想とする人も少なくないだろう。だが、本当にそれだけでいいのだろうか。前回は、定年退職後の高齢人材に厳しい視線を向ける企業の姿をリポートしたが、今回は定年後もスキルを生かしてバリバリ働きたいという思う個人と、そんな個人を増やしたいと模索する企業の動きを追う。

健康機器大手のタニタ(東京・板橋)本社内の一角に、タニタ総合研究所という子会社がある。60歳で定年を迎え、タニタを退職した25人がここで働く。出張手配や営業車のリース契約といった本社向けの事務仕事に携わる人もいれば、派遣社員としてタニタ本社内で働く人もいる。タニタ本社の社員だった頃と比べると給与は減る。残業もない。第一線で働いていた60歳までの働き方をいったんリセットする。
「新しく趣味を始める人も多いですよ。肩の荷を下ろして“スローライフ”に入る。定年までとは別の働き方ですね」とタニタ総研の今正人社長はいう。新型コロナウイルスの感染が拡大する以前は、歓迎会や送別会といった懇親会が頻繁に開催されていた。定年まで無事に勤め上げ、一線から退いた人たちの集まりは、和気あいあいと平和で穏やかな雰囲気が漂うという。
今から11年前の2010年、タニタは定年を過ぎても働きたい社員向けに再雇用の受け皿としてタニタ総研を設立した。タニタでは、社員は55歳になると会社側から60歳以降も働きたいかどうかという意思確認をされる。継続して働きたい社員は、60歳になるとタニタ総研に移籍する。
「再雇用の受け皿」で高齢者は力を発揮できるのか
定年を迎えた社員を再雇用する受け皿として、子会社や関連会社を活用する会社は多い。特に大手企業は、グループの規模を生かして定年後の再雇用者を子会社や関連会社が引き取るケースは珍しくない。
NECは20年10月、60歳以上の人材の就業支援をする会社を設立。今後5年の間は、NECグループ全体で年間約3000人が定年を迎えるという。そうした人材を引き受けるのが狙いだ。化粧品大手マンダムも18年、再雇用の受け皿として、商品の梱包や自社ビルの清掃などの業務を請け負う子会社を設立した。
本社としては、組織の新陳代謝を図りたい。だが、将来の人手不足に備えるとともに、政府が求める雇用の延長にも応えなければならない。子会社やグループ会社を通じた再雇用には、その両立を図る狙いがあるのだろう。だが、「もっと働きたい」という高齢社員を一律に子会社やグループ会社で受け入れるだけで、本当に高齢社員が持つ能力を十分に引き出すことにつながるのだろうか。
タニタで起きていることを見ると、受け皿会社を通じて責任や業務が限定的な仕事をあっせんするだけでは、高齢人材の能力を生かし切れないことが分かる。
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