リアルに侵食を始めたアリババグループ

 さらに、アリババはスーパーやフードデリバリー、ホテル、デパートといったリアルビジネスも手掛けており、売り上げが全体の20%を占めるようになってきました。動画配信サービスの「優酷(Youku)」も買収しており、動画サービスで中国第3位の位置につけています。Youkuは毎月4.3億人が1日平均70分見ているというデータもあります。これらの様々なサービスから生まれる圧倒的なデータ量と、それに基づくターゲティングによってプロモーションするのがアリババの強みなのです。

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 いびつなぐらい巨大なネット社会がいきなり生まれたのが中国の実情です。ネットの方が急成長して、リアルが追い付いていなかったからこそ、私たちから見ると「未来型」と思えるサービスが数多く生まれているのです。一方、日本ではリアルがすでに充実しているので、ネットへ進出するという「進化の順番」が違う点で、大きく中国とは事情が異なるのです。

 そこへ新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。よりパワーを発揮しているのが「OMO」です。OMOは「Online Merges with Offline」の略で、ざっくり言えば、オンラインでもオフラインでも同じ体験を提供できるようにする世界観や仕組みのことです。中国では、このOMOも急速に発展しています。第1回でも触れたように、新型コロナが加速させた非対面非接触でも実現するビジネスモデルへの転換を実現するうえでもOMOは重要です。

 例えば、アリババが始めた食品スーパーの「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ)」はOMOの典型例。リアル店舗がネット店舗の倉庫も兼ねており、リアル店舗の商品はすべてネットから注文できます。また、店舗から3km以内であれば30分以内で無料配送もしてくれるのです。購入経路がリアル、ネットにかかわらず、決済手段のひも付いた専用の会員アプリを用いるため、購買データをすべて把握できます。そして、個人の信用情報はアリババグループが運営する信用スコアリングサービスの「芝麻(ジーマ)信用」に蓄積されていきます。

 ほかにも、中国の杭州にある「銀泰百貨店」は、アリババが買収した後に「デジタル百貨店」と呼ばれるほど、先進的な設備が導入されました。その中には、タブレットのカメラに自分の顔を映して、AR(拡張現実)の環境でメイクを試せるというブースがあります。コロナ禍で化粧品テスターが使えないなかで、仕上がりをイメージできます。

 そして、消費の際の選択方法も変わってきています。これまでECの主流は「ロングテール」と呼ばれる、数多くの商品を取り扱える点こそが強みといわれてきました。アマゾンや楽天市場はその代表的です。現在では、「あなたにはこれがぴったりではないですか」と推薦するレコメンドシステムが当たり前になり、消費の際の選択に大きな影響を与えています。

 こうした動きはインターネットのほかのサービスでも広がっています。例えば、同じ動画配信サービスでも、「YouTube」と「TikTok」は決定的な違いがあります。TikTokは短尺動画を次々に見られる中国発のサービスで、日本でも人気が高いサービスの一つですが、動画が次々と表示され、その表示順の決定にAI(人工知能)を使っています。一方、YouTubeでは、ユーザーはたくさんの動画から表示された画面から、自分で「どの動画を見ようか」と選んでいます。TikTokではAIからレコメンドされるものを「見るかどうか決める」というスタイルになっている点で、「人が選択をしなければいけない」という制限を無くしています。

 デジタルにおける消費も同様で、AIによるレコメンドを選ぶ世界になっていく可能性は十分あります。そして、いかにユーザーが興味を持ったかという行動データもすべて収集できるので、衝動買いも起きやすくなっていく。こうした世界観が前提で動いている中国や米国と、日本を同じように考えていくのは非常に難しいのです。

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