Kaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏による連載の第7回は、デジタル化で先行する中国やアメリカとの根本的な格差を見ていく。

(写真:的野 弘路)
(写真:的野 弘路)

 DX(デジタルトランスフォーメーション)を議論する際に、必ずといっていいほど引き合いに出されるのは中国企業の急成長です。ただ、日本と中国、あるいは日本と米国の歴史的、文化的、規模的な環境の違いを事前に知っておかなければ、同様のことを日本でも実現できるのではないかと錯覚してしまいます。今回はその差異をおさらいすることから始めましょう。

 前提として、大きく異なるのは人口動態です。中国も米国も、日本と比べると若者が占める比率が高い国です。当然、ビジネスでも若年層の優先度が日本よりも高くなりますから、そちらの利便性や評価が優先されます。デジタル化の対応も若者が基準となるため、その層に向けて本気で取り組みます。

 もし、高齢者がデジタル化の恩恵を受けたいと思えば、自分から若者たちに合わせにいかなければなりません。「高齢者が付いてこられないから導入しない」という話ではなく、むしろ高齢者に「便利だからこっちを使う」と思ってもらえるような機会を提供しています。日本は高齢者世代の拒否権の影響力が大きいですが、中国はそれがありません。これもDXの大きな差を生む要因です。

 特に、中国はこの十数年で急速に発展した国です。日本と中国のGDP(国内総生産)が逆転したのは2010年。そこから10年の間に約3倍の差がつきました。日本のGDPが約500兆円なのに対し、中国のGDPは1400兆円に届きました。

 日本のEC(電子商取引)市場は物販や旅行業なども含めると概算で20兆円程度ですが、中国はEC市場だけでも150兆円の規模があります。中国最大のEC(電子商取引)プラットフォームであるアリババの年間流通総額は約106兆円ですから、相当のシェアを持っていることが分かります。一方、米国のEC市場は63兆円ほど。いかにアリババが巨大な存在かが分かるはずです。

 なぜ、中国がそれほどの市場規模にまで至っているかというと、中国はリアル店舗の発展を飛ばして、EC市場が急成長したからです。かつての中国は実店舗で売られている商品は価格や品質の面から消費者からあまり信用されていませんでした。

 当初はECの世界でも偽物の横行が散見されていました。しかし、インターネットの世界ではユーザーレビューをはじめとする評価システムや、エスクロー取引(エスクローとは、取引において買い手と売り手の間にエスクローエージェントと呼ばれる第三者が介在し、代金と商品の安全な交換を保証するサービス)によって素行が悪いお店は徐々に淘汰されていきました。これによって、ECの方が信頼性を高め、結果的に市場が拡大していったという流れです。携帯電話やその後のスマートフォンの急速な普及も、当然ながらEC市場拡大に貢献しました。

 こうした背景から、リアル市場を凌駕(りょうが)するほどのネット市場が形成されていったのです。こうした市場がリアルに進出してくると何が起きるのか。好例が、アリババの見せた「自動車の自動販売機」でした。アプリ経由で購入することができ、受け取りは現地で行うというスタイルです。アルファ ロメオが中国市場へ再参入した際、最初に準備した350台の新車はネット経由で33秒で完売しました。現在、中国の自動車販売においてアリババは最大規模のディーラーになっています。

 アリババグループが提供する電子決済サービスの「アリペイ」は、取扱高が1800兆円あるといわれます。時価総額100兆円を超える会社は、現在、米アマゾン・ドット・コム、米アップル、米アルファベット(米グーグルの親会社)などですが、「もし次に100兆円を超える会社はどこか」と問われたら、私はEV自動車メーカーの米テスラと、アリペイだと考えています。アリペイは電子決済といいながら、もはや一国以上の通貨を扱っているようなもので、これほどの取引データを保有する企業はほかにありません。クレジットカード企業が束になってもかなわないでしょう。

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