管理会計や人事評価に触れずにDXを進めると苦戦

 D2Cとサブスクリプションはとても相性がよいとこれまでも述べてきました。現在のサブスクリプション化の流れはソフトウエア業界の移行が発端で始まりました。代表例は画像や映像の編集ツールを提供する米アドビ(Adobe)で、バージョンごとにパッケージの売り切りモデルだったものを、クラウドベースで常に最新版が使える、月額課金制のサブスクリプションモデルに切り替えたことで業績を伸ばしています。

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 特にアドビが提供するような高価なソフトウエアは買い替えが起きにくい商品だっただけに、顧客は月額固定費が少なく、常に最新版が使えるクラウド版の方が便利と感じているわけです。ただ、サブスクリプションという形態そのものは、D2Cやソフトウエアで重宝される以前から存在していました。新聞などがその一例です。

 サブスクリプションのビジネスとしての利点は、契約ユーザー数を基にした長期的な収益予想がしやすいことです。新型コロナウイルスによって痛手を負った米ウォルト・ディズニーは、自社で映像配信事業の「Disney+(ディズニープラス)」を開始したことで、市場から評価され株価を持ち直しました。

 これまで、ディズニーは「映画の売れ行き」に株価を左右されてきました。彼らはヒット映画を生み、その映画を基にしたアトラクションやイベントをディズニーランドで仕掛けて回収していくというビジネスを確立してきました。

 ところが、コロナ禍で映画館が開かない事態に陥ったときも、全世界で約8680万人のユーザーを獲得したディズニープラスがあることで、新作を確かに見たい人へ直接届けられるようになりました。つまり、ディズニーは映画のヒットによらず、安定的な集客装置を作ったということを市場から評価されているのだと思います。

 D2Cやサブスクリプションをビジネスで営んでいくうえで、このような長期的な収益予想に基づく管理会計は欠かせません。現地点だけの売り上げで評価してしまうと、その本質を見誤ってしまうためです。まずは「顧客獲得単価(CAC:カスタマーアクイジションコスト)」といって、一人の顧客を獲得するのにいくら必要になるのかを見る。そして、「顧客生涯価値(LTV:ライフタイムバリュー)」という獲得した顧客から初回の取り引きで得られた利益だけではなく、その後も取り引きを続けた場合の利益はどれほどになるのかを見る。CACとLTVの2つの軸による長期的な収益予想は必須です。

 多くはCACが先行するため、最初は赤字であることが多く、単年度や単月度PL(損益計算書)を見ても価値は分かりません。そのために管理会計や人事評価も変えていく必要があります。

 ここは非常に重要な論点なのですが、この管理会計や人事評価に触れずにDXを進めようと、苦戦してしまいます。管理会計や人事評価の変更に対して、現場の拒否感が強まるのも事実です。米国企業がトップダウンの上意下達であるのに比べ、日本企業は中間管理職や現場からの拒否権が強く、統制が効きづらいケースが散見されます。むしろ、これさえ変えられれば、DXの成功率は格段に上がるというくらい重要な論点となっています。

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