創業者が健在だったときの教えをなぞるだけでは、事業環境の変化などへの対応で後れを取る恐れがある。当時の背景を理解し、真意を探り、現在に当てはめる活動が必要だ。創業精神を生かせるか否かは、現役の経営陣の手腕にかかっている。

ヤオコーは埼玉県を中心に関東で約180店を展開する

 「企業の理念や哲学には、創業者の人生哲学がそのまま表れる」。埼玉県を中心にスーパーマーケットを約180店展開するヤオコーの川野幸夫会長は、先代の教えについて、実感を込めてこう話す。

 店を開いたのは1890年まで遡るが、1957年までヤオコーはローカルな青果店だった。現在の事業モデルに転換した実質的な創業者は、川野会長の母であるトモ氏。「どうしたら顧客にもっと喜んでもらえるか」を考えたトモ氏は58年に周囲を説得しながら、セルフサービスを導入した。

 スーパーに転換すると、68年にはチェーン展開に踏み切る。「事業を大きくしようと熱心に勉強して、社内外の情報にも大変敏感だった」と川野会長は振り返る。

川野会長は「理念の伝道者」として活動する(写真=栗原 克己)

 トモ氏は社員一人ひとりをよく見ていた。事業規模が小さい頃、正月になるとトモ氏はポチ袋に社員それぞれの名前を書いてお年玉を渡した。会社の運動会では社員の子どもに名前で呼びかけ、社員の家族から直接、様々な相談を受けた。規模が拡大してからも晩年に体調を崩すまで、頻繁に店を訪れて、元気がない社員がいると声をかけ悩みを聞いた。

 川野会長は「社員一人ひとりに家庭的な温かい気配りをしたし、本当の家族のように大切にした。それがヤオコーの家庭的な社風につながっている」と話す。

ヤオコーの実質的な創業者は川野幸夫会長の母トモ氏

 この社風を独自の戦略に昇華できるかが、時代時代を生きる経営者の腕の見せどころだ。ヤオコーの場合、チェーンストア経営の常識といえる「本部主導」ではなく、各店舗が独自に売り場をアレンジする「個店経営」を掲げる。

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