分岐点は2025年

勝負の分岐点はいつ訪れますか。

吉野氏:2025年ですね。IT革命では準備期間が15年間あったと話しましたが、ET革命の場合も全く同じ図式でしょう。電池の準備期間がいつから始まったかというと2010年、日産自動車の「リーフ」が発売された頃。そこから15年間の準備期間を考えたら、25年が勝負どころ。

 あと4年間ですが、どのメーカーも準備を進めているでしょ。勝てるかどうかといったら、勝てると思いますけどね。1つは日本の自動車産業が勝つだけの力を持っていること。まだ出てきてないけど準備万端整った状況だと思いますよ。

勝つ力というのは、どこにありますか。

吉野氏:これから市場が広がる車載電池の場合、電池と車のすり合わせが必要になります。この部分にあると思う。ただ、すり合わせは自動車メーカー傘下でやっていかないと、やはり難しい。日本として1つに統合していくのはなかなか難しいと思いますが、今後、材料メーカーと自動車産業が直結する格好に変わっていくのではないでしょうか。電池と車の関係は、電源と本体がやりとりする上で非常に重要な要素技術になっていく。そうなると、トータルのシステムとして組み込まれるだけに、技術面でも一体にならざるを得ないでしょう。

 もう1つ、25年以降は自動運転の世界が出てくる。そうなると、また違う問題も出てきます。

(写真:REX/アフロ)
(写真:REX/アフロ)

電池の要求水準が変わってくるということですか?

吉野氏:現在のカーシェアリングサービスはあくまでも人が運転するもの。それが、無人運転の世界に入ると必要な場所まで車で運んでくれ、人工知能がルートを判断してくれる。そうなると車の稼働率も上がりますよね。今までは電池に航続距離を求めていたけど、耐久性がより重視されるようになります。

 要注意なのは、25年以降の自動運転の世界に入ると、米グーグルの(共通OSである)アンドロイドの話になってくることです。特に無人自動運転の世界を想定した米アップルのEVは要注意ですね。今、アップルが開発している電池には「リン酸鉄系」の正極材が用いられているとされます。エネルギー密度はそれほど高くないものの、耐久性が抜群。つまり、無人自動運転の世界で必要とされるものを開発しているし、それに目をつけている時点でやはりアップルは要警戒ですね。

産業構造のあり方がガラッと変わるかもしれないですね。

吉野氏:テスラもグーグルと一緒だと見た方がいいでしょう。今、スマートフォンはIT社会の基幹ツールになっている。それを使った川下のビジネスで成長をしたのがGAFAでしょ。車の場合も戦略が全く一緒ですから、スマホと同じことをテスラやグーグルは考えていると思います。

 そういう世界で日本の産業がどうなるか。ぼやっとしていたらテックジャイアントの下請けになってしまう。だから、この車がないと川下のビジネスはそう簡単にできませんよ、という存在になるとかね。他にも、単に要求特性を満たすというより、例えばリサイクルの技術がちゃんと確立するといったことも欠かせないでしょう。

EVの本格的な普及期を迎えつつありますが、石炭火力発電所で生み出した電力でEVを走らせることが本当に環境負荷の低減につながるのか、疑問視する声もあります。

吉野氏:50年に向けて二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという政府目標が出ているので、やっぱり役割を車が果たさなくてはいけない。せっかく車に電池を搭載しているわけですから。例えば車を蓄電システムとして使うような発想をし、結果的に再生可能エネルギーの普及を促すことになるとアピールもできる。

 電池を載せたEVは使命を背負っている。仮に100万台のEVが普及したとしたら、蓄電容量は膨大な量になる。いつまでも鶏が先か、卵が先か、という話をしている場合ではないわけです。

 25年に分岐点が来るのは間違いない。そこで若い日本人技術者がどれだけ活躍できるかどうか。日本人はばかじゃないから、僕は大丈夫だと思っていますけどね。

 次回「EV急増の欧州、元テスラ幹部に託す悲願の電池産業育成」(1月28日公開予定)では、独フォルクスワーゲンなど欧州自動車大手、そして新興バッテリーメーカーとして注目を集めるスウェーデンのノースボルトの動向をお伝えします。