英国のジョンソン首相は、新型コロナウイルスの対応に追われている(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 感染力の強い新型コロナウイルスの変異種「B.1.1.7」が、ロンドンおよびイングランド南東部で猛威を振るっている。ジョンソン首相は12月19日の夜、他に代替策がないとして、より厳格な制限措置カテゴリーのTier4を設置し、ロンドンおよびイングランド南東部に3度目となるロックダウンの導入を宣言した。

 季節性インフルエンザでは、急速な変異を遂げる種類があるものの、新型コロナウイルスが同様の軌道をたどるかは明らかになっていなかった。ハンコック保健相は、全体像の報告を受け、状況の深刻さを政府が関知したのは12月18日になってからと説明している。ただし実際、変異種の脅威について12月14日の週前半には既に警鐘が鳴らされていた。

 イングランド公衆衛生庁(PHE)によれば、変異種は、9月にケント州で採取されたサンプルから10月に検出されていたものの、政府の対応は遅かったという。変異種による感染拡大が本格化したのは10月後半、英国が第2波に襲われたときからであり、11月中旬には同変異種による感染はロンドンやイングランド南東部での感染者の28%を占めていた。

 さらに12月9日までには、変異種は既にロンドンでの感染者の62%に達しており、入院患者の34%を占めていた。英国政府のあまりにも遅い対応に、有権者は怒りの声をあらわにしており、保守党支持者が圧倒的に多い筆者が住むロンドン郊外の地域でも、旧知の英国人の多くは、「なぜ早く公表しなかった」と、政権批判の声が止まらない状況となっている。1月に中国・武漢で新型コロナウイルスでの感染拡大が始まったときに、中国政府の対応の遅さに批判が集まったことを想起させる事態となっている。

17種類の変異を同時に遂げた

 また、感染拡大に関し政府への助言を行う、新型呼吸器系ウイルス脅威諮問グループ(NERVTAG)が12月18日に発表した報告書によると、同変異種はこれまでのウイルスに比べ、感染力が71%強い可能性が示されている。ただし、この数値は、感染拡大における変異種とこれまでのウイルスとの感染率におけるモデリングを基にしており、あくまでも推計値であることを強調している。

 NERVTAGの報告書によると、同変異種はイングランド南東部で最初に発生しており、11月5日~12月2日に行われたイングランドのロックダウン中に、指数関数的にロンドンおよびイングランド南東部で感染が拡大したとされている。

 また新型コロナウイルスが変異してはいるものの、抗体が効かなくなるほどの速度で変異しているわけではないとされていた。これまでも、新型コロナウイルスは月に1、2回のペースで変異しており、計23の変異種が検出されていたと報じられている。

 ただ英サイエンス誌によると、今回の変異種「B.1.1.7」は、17種ものアミノ酸基の変異を同時に遂げており、その変異の多さに驚きの声が集まっている。今回特にそのうちの2つの変異に問題があるとされており、その一つがウイルスと人の結合部位に関する「N501Y」と呼ぶ変異であり、ウイルスが人間の細胞に侵入する際の入り口( ACE2受容体)へのたんぱく質結合を強めるものである。

 またもう一つは、「60-70欠失」と呼ばれ、スパイクたんぱく質における2つのアミノ酸を欠失させるもので、一部の免疫不全患者の免疫反応を逃れたウイルスから検出されている。似たような変異が英国に限らず、世界各地で突然起こる可能性は高いとされている。

 さらに、この変異種が、現在、英国で急増している健康な若年層への感染に影響しているとの示唆もある。NERVTAGによると、初期の新型コロナウイルスは、成人に比べ子供に感染しにくいことが分かっており、その原因として、さきほどのACE2受容体(ウイルスの人間への入り口)の数が子供には少ないためとしている。NERVTAGは、ウイルスの変異により、このACE2受容体への進入が容易となったことが、子供にも感染しやすくなる原因と指摘している。

 また、英国の一部の科学者は、この変異種が50%を超える致死率を持つと主張しているが、あくまで初期段階のバイアスがかかったデータに基づいているため、慎重な取り扱いが求められる。

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