12月8日、英国で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった (写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 12月8日、英国でついに新型コロナウイルスのワクチン接種(米ファイザーとドイツのビオンテックが開発)が、国内接種ハブとなる50の病院で始まった。ワクチンは初日と21日後の2回接種が必要になる。接種を受けた人は、予防接種に関するカードを渡され、手書きでワクチンの名前、接種日、バッチ番号などが加えられていく。

 世界初のワクチン接種のスタートは、英国のEU離脱(ブレグジット)協議の難航で、暗いムードであった英国にとっては久々の朗報であり、英国メディアは祝福ムード一色である。ただし、そもそも今回、最初に接種されるワクチンは、米国とドイツの企業が開発した製品であり、自国で開発中の英オックスフォード大学/英アストラゼネカの製品ではない。

 米独企業が共同開発したワクチンの世界初の承認を「コロナウイルスの戦いを英国が主導した」と評した、シャルマ英ビジネス・エネルギー・産業戦略相の発言に「国際的な努力と成功のはず」と米国・ドイツが怒りの反論を展開したのは当然であろう。

実はかかりつけ医にも薬局にも運搬可能なワクチン

 当面は、12月中の接種に向け80万回の投与量が確保されており、指定病院で医療・介護従事者や65歳以上の高齢者が優先される。ただ優先順位の高い、80歳以上の高齢者であっても、その大半の接種は2021年に入ってからとみられている。

 今回、英国政府はファイザー/ビオンテック社開発のワクチンを(英国民の約3分の1にあたる)2000万人分発注しているが、問題は今後、本当に大規模なワクチンの集団接種が展開できるのかということである。そもそもファイザーのワクチンはマイナス70~80度での保管が必要であるため、専用の冷却装置が設置された病院でないと接種できないのでは?という疑問の声がよく聞かれる。

 確かに解凍前のワクチンは、専用冷却ボックスでの運搬と、専用の冷却設備のある大規模病院での保管が必要になる。また、⼀旦、ワクチンが⼊っている⼩瓶(1000回分)が解凍されれば、5⽇以内に接種されることが求められる。

 ただし解凍後も5日間であれば、通常の冷蔵庫(2~8度)でも保管できるため、接種ハブ病院から(専用の冷却設備がない)かかりつけ医(GP:General Practitioner)への運搬も可能となっている。また冷蔵庫から通常のクーラーボックスに移し替えても、6時間は保存できるので、老人ホームなどへの訪問接種も可能となる。

 また英国政府が予定している、2021年以降の集団接種場所を確認してみると、①病院、②ワクチンセンター(ブリストルやボーンマスなど全英50カ所に新規に設営中)、③かかりつけ医の他に、④薬局が指定されている。これを聞いてすぐにピンとくる人は、相当の英国通(もしくは英国在住者)であろう。英国は2015年から薬局での薬剤師によるワクチン接種が解禁され、インフルエンザのワクチン接種などもハイストリート(商店街)のドラッグストアで簡単に受けることができる。

 正直、全国民が接種する前提であるならば、かかりつけ医だけでは、集団接種に時間がかかりすぎる。そのため、地域の拠点として一般の薬局にもワクチン接種を拡大させた英国の規制改革は、今後、迅速にコロナワクチンの集団接種を実現させるためにも参考になる事例であろう。

 ただし実際は、(解凍後5⽇以内の)輸送や接種通知などこれから多くの課題があることは、国民保健サービス(NHS)の医療担当官は認めている。来年以降、大規模接種が開始され、4月のイースター休暇までにイングランドの18歳から50歳の成人全てに対して接種の機会が提供される。そのために、かかりつけ医や薬局など接種場所への運搬、保管、接種の仕組み作りを急いでいる。

 
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