今年8月、英国のジョンソン首相はスコットランド沖の洋上風力発電所を訪問した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
今年8月、英国のジョンソン首相はスコットランド沖の洋上風力発電所を訪問した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 筆者は海までの距離の近さで日本でも一、二を争う高校に通っていたこともあり、昔から海へ行くことが趣味の一つである。英国でもロンドン郊外、イングランド南東部のイギリス海峡や東部沿岸の(油田もある)北海にも時折足を伸ばすが、ここ5年ほどで沿岸に風力発電ファームがどんどん建設されている。

 その中でも、南東部のブライトンに近いショアハム港にある、2基の風力発電機は周辺の小学校を命名コンテストに招くなど、地元の人気を集めている(東側がSpinny、西側がGusty)。タービンは直径22メートルの3枚羽のブレードで構成され、全長は35.5メートルとなる。タービンの真下も立ち入り禁止ではなく、普通の歩道である。このような至近距離で風力発電機を見ることはなかなかできないため、英国でも注目のスポットとなっている(羽根が落ちてこないか心配な距離なので、見ごたえは十分)。

 この風力発電機は、ショアハム港内の水門のポンプへの電力供給用に設立されたものである。同港はこれに加えて、地方自治体や地域社会と緊密に協力し、今後数年間でグリーンエネルギーの生成拡大を目指している。同港の風力発電機は港湾ビルに設置されたソーラーパネルと共に、大気中に放出される二酸化炭素を毎年5000トン近く削減することに貢献しているという。

 海に囲まれた英国では、洋上風力発電ファームの潜在能力が高いことは以前から認知されていた。米国東海岸沖で発生した大型の低気圧が、はるばる大西洋を渡ってアイルランド島を直撃し、散り散りとなった雲がグレートブリテン島に雨をもたらす(ゆえにロンドンでは雨が多い)。同時にこの大型の低気圧の影響により、沿岸部では、西から強風(Gale)が吹く。英国はこのような豊富な風力を利用したグリーンエネルギーの供給を目指し、欧州でもいち早く風力発電事業に乗り出した。その甲斐もあって2019年には史上初めて、再生可能エネルギーによる発電量が化石燃料発電量を上回ったほか、20年に風力が英国の発電量の約25%を占めた。

ショアハム港の風力発電機(上)。手前にSpinny、奥にGustyという愛称が付いており、一般の歩道沿いにあり誰でも真下を歩ける。ブレード(発電機の羽根部分)がくるくる高速回転するSpin、また突風の吹く、あるいは雨風の強さを表現するGustyという言葉に由来する。<br />命名した地元の小学生が描いた絵(下)。フェンスの目の前に飾ってあり、地元でも愛されていることが分かる
ショアハム港の風力発電機(上)。手前にSpinny、奥にGustyという愛称が付いており、一般の歩道沿いにあり誰でも真下を歩ける。ブレード(発電機の羽根部分)がくるくる高速回転するSpin、また突風の吹く、あるいは雨風の強さを表現するGustyという言葉に由来する。
命名した地元の小学生が描いた絵(下)。フェンスの目の前に飾ってあり、地元でも愛されていることが分かる

予期せぬ天候の変化?来年もこれが続く可能性

 ただし、この急速な風力発電へのシフトが、9月末から顕著になった英国エネルギー危機の一因にもなっている。英国在住者であれば気が付いた人もいると思うが、今年の春から秋(4~9月)にかけて、英国ではとにかくGaleが吹かず、海もなぎの状態が多かった。 

 天気図を見ることも長年の趣味である筆者は、今年は大西洋での低気圧の発生が少なく、北ヨーロッパ全体で風速の低下が長引いたことが原因とみている。さらに中央ヨーロッパで高気圧が停滞する期間も長く、ただでさえ少なくなっていた低気圧が英国に上陸できなかった。このような予期せぬ天候変化が風力発電量の減少を招き、2021年第2四半期には、英国で風力が発電量に占める割合は15.9%にまで落ち込んだ。英国電力大手スコティッシュ・アンド・サザン・エナジー(SSE)によれば、同社の再生可能エネルギー部門の発電量は当初の予想より32%も少なくなるという。

 ただし今年と似たような気象条件は、筆者が英国に在住しているここ数年の間にもあった。専門家でも風量が減少した根本的な原因は、分かっていないとのことである。一部の気象専門家によれば、気候変動による地球の両極の気温上昇によって、平均地上風速の減少が起きているという説があるという。これは、赤道付近より早く南北の両極が温かくなったことで、地球の温暖差が減少し(風は高気圧から低気圧に向かって吹くが、双方の威力が減少)、地表近くの風速の低下が長期的に起こり始めたというものである。

 確かに今年の英国は、例年より海水温も高く(通常、英国の海水温は真夏でも日本より相当冷たい)、11月になっても海を裸で泳ぐ者がいるほどである。朝晩は寒くなってきたが、日中はTシャツで過ごせるほどの気温となる日もある(まるでスペインにいるようだ)。風速の低下が一時的な現象ではなく、気候変動による変化だとすれば、来年以降も風力発電からは期待された発電量が得られない可能性がある。風量の減少は、英国に限らず欧州における再生可能エネルギー政策の根本を変える可能性すらはらんでいる。

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