相互に責任転嫁しあう英国防省と外務省

 新たな部隊は派兵に前向きなEU加盟国の兵士のみで構成し、過半数が賛成すれば派兵するという案も示唆されている。これは、EUの軍事大国であるフランスやドイツに、EU軍や軍事支出が牛耳られることを嫌がる加盟国への配慮である。加盟国の軍事力をNATOとEUと分けて準備することはできず、作戦に応じて自軍を運用せざるを得ないため、欧州の安全保障を強めるどころか、リソースや人員をいたずらに減らすだけの結果に終わるという批判への対処でもある。

 ただ、これまでも欧州では、共通防衛資源のプール化の試みは軒並み失敗に終わっている。EU統合初期の1954年には、欧州防衛共同体の提案は棚上げされた。さらに99年、EUは加盟国共同で60日内に最大6万人の海外派兵を可能にする共通防衛政策で合意もしていた(2007年には世界の紛争地域に、1500人の戦闘部隊を即派遣できるようなシステムも確立)。ただ戦闘部隊が派遣されるには、27加盟国の全会一致での賛成が必要となるなど派兵のハードルは高く、実際には過去14年間にこれら兵力は一度も利用されなかった。無論、EU旗の下で命を落とす可能性のある任務に自国兵士を送りたがる政治指導者は多くはなく、リビアなどに派兵する計画もあったがいずれも計画は頓挫している。

 また英国ではアフガン危機における対応で、国防省と外務省との間で責任のなすり付け合いが発生している。ラーブ外相によれば、当初から「カブール陥落は年内まで起きない」というアフガニスタン情勢の甘い見通しを英国政府は共有していたという。ただこれは、政府から独立した機関による見通しで、NATO同盟国も共有していたと弁明している。

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