英国は風力発電所を増やしてきたが、今年は風が弱く発電量の低下が懸念されている(写真:ロイター/アフロ)
英国は風力発電所を増やしてきたが、今年は風が弱く発電量の低下が懸念されている(写真:ロイター/アフロ)

 筆者が英国に来てからはまった趣味の一つはガーデニングである。とはいえ、バラや花壇ではない。筆者が育てる対象は“芝生(Lawn)”である。なんだ、芝生かと思われるかもしれないが、かなり奥が深いのである。芝は根が短いため、水やりや手入れの機会を逃すと思いのほかすぐに枯れてしまう。枯れて土に穴が開けば、元に戻すのに1年近くかかることはざらにある。枯れた後、すぐに手を打たなければ全てをやり直す羽目になる。

 英国では前庭や後庭(バックヤード)の美しさが、その家の不動産価値に大きく影響するため、たとえ借家でも大家からとにかく芝をきれいにしてくれとすぐに注文がくる。それもそのはず、良い土壌を育てるには最低5年はかかる。一度、庭の世話を怠れば、不動産価格が1割は落ちるといわれている。建物は改修にお金をかければきれいになるが、庭の芝はそうはいかないのだ。そのため、大家の芝にかける意識は相当高く、ある意味、不動産投資のバリューアップ戦略の一つといわれている。

 筆者も大家から口酸っぱく言われて、渋々ガーデニングを始めたくちだが、始めてみると奥深さが分かり、既にドップリはまっている。道具を全て買いそろえて、芝の長さや根切りのタイミング、肥料の話を始めると際限がなくなるなど、立派な英国式ガーデナーの一員である。ちなみに筆者は芝生の縁の処理に自動芝刈り機など使わない。男は黙って“手ばさみ”で延々と芝生の長さを高さ2cm均等に整える。無論、仕上がりは自動芝刈り機とは全く違う美しさである。日曜の午後に中腰で、黙々と芝生を“手ばさみ”で切っている中年男性の姿は、想像するだけで、笑ってしまうかもしれないが、本人はいたって真剣である。

 ゴルフを趣味にする金融街シティーの英国人男性バンカーは多いが、同時に芝を育てることに情熱をかけている人が大半だ(芝の世話は体力勝負である)。同じビル内のゴルフが趣味の債券トレーダーの中には、ガーデナーに転身してしまった猛者もいる。立派な芝を育てているバンカーの家を見ると、仕事もゴルフもうまくいきそうだと錯覚しそうになる(芝を愛するため、フェアウエーでのターフの取り方も最低限であったりする)。

 筆者の旧知の英国人は、プロゴルファーから金融界に転身してヘッジファンドに勤務する変わり種だが、彼の家の庭の芝は見事であった。この芝にかける情熱を知らず、その芝の上に、(英国不動産投資における芝の重要性に疎い)外国人の友人が車を駐車していることに気づいたときの、彼のひきつった顔を忘れることはできない。事を荒立てることを嫌い、他人の面前で注意するなどもってのほかの英国中流階級の彼は、黙って歯ぎしりするしかなかったのである。とにもかくにも、英国では芝生への駐車は要注意である。

 また、芝にはまった人は、ぶどうの木の生育にはまる人も多く、好きが高じてワイナリーの権利(畑いじりもできてワインのオーナーになれる)を購入するバンカーも後を絶たない。寒い英国でワインなんてできるのか?と思う読者も多いと思うが、筆者の住むロンドン郊外南西部(フランス寄り)の土壌は、フランスのシャンパーニュ地方の土質に近く、温暖化の影響もありワイナリーがここ10年ほどで急増している。ヘッジファンドが投資対象として筆者の近所のワイナリーをまるごと買収したケースなどもあったくらいだ。

次ページ イングランド南東部は1976年以来、最長の乾燥した期間に