英国のジョンソン首相は、7月19日に新型コロナウイルス対策の行動制限措置を廃止することを発表した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
英国のジョンソン首相は、7月19日に新型コロナウイルス対策の行動制限措置を廃止することを発表した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 7月5日、ジョンソン首相は会見を開き、新型コロナウイルスによる行動制限措置のうち、最後まで残っていたものを当初の予定通り7月19日から廃止する方針を発表した(制限措置解除の行程表がステージ4に進むことを意味する)。

 これにより公共交通機関や店舗でのマスクの着用義務が撤廃され、劇場や映画館での収容可能人数制限も不要となり、1メートルの社会的距離政策(ソーシャルディスタンス)も廃止される見込みとなった(最終的な決定は7月12日に最新のデータを検討した上で行われる)。また翌6日には、ワクチン接種が完了している人は濃厚接触者となっても隔離措置が免除される方針が発表されている。

 海外からの帰国時の隔離措置についても、ワクチン接種を完了(最後の接種から14日経過)している英国在住者は、日本を含む「黄」に分類された国から帰国する場合に、これまで必要とされた10日間の隔離が7月19日より不要となる(英国では各国・地域を赤黄緑の3つに分類し、それぞれの国・地域から入国する際のルールを定める信号システムを導入している)。

 行動制限措置が導入されてから既に16カ月が経過し、筆者を含め英国に住む誰もが心待ちにしていた解除である。だが、現時点では、心から喜べるとは言い難い。なぜなら英国ではインド型(デルタ型)変異ウイルスによる感染が急増しており、7月9日に1日当たりの新規感染者数は3万5000人を突破している。

 会見でジョンソン首相は、2週間以内に新規感染者数は5万人を突破し、死亡者数もそれに伴って増える可能性があることを認めた。しかしながら、(同日の)入院患者は1905人、死者は9人にとどまっていることを強調し制限措置撤廃に踏み切る意向を示した。確かにワクチン接種プログラムの成功により感染拡大の第三波はこれまでのピークとは異なる様相を見せている。新規感染者数が5万人に上った場合、ワクチン接種が進む前であれば死亡者の水準は500人ほどになっていたと考えられるが、現状では50人前後にとどまるとみられている。ワクチンが感染者数と死亡者数との相関を低めたことが、制限措置撤廃の主因である。

 足元で感染拡大がみられる中、ここまで急速なペースで制限措置を解除した国はなく、英国は未知の領域に踏み出すことになる。感染の温床となっている学校が夏休みとなる今を逃せば、秋冬にはインフルエンザの流行が予想されているため、制限措置撤廃が2022年にもつれ込む恐れがある。このためジョンソン首相は、新型コロナウイルスと共生しながら通常の生活へ回帰するのは今しかないと、リスクを取る方針を明らかにした。

続きを読む 2/3 ソーシャルディスタンス撤廃で感染拡大国に逆戻りしたイスラエル

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