米国での特例失効が引き金に
米国では2月28日以降、対ロシア制裁の一環として、ロシア財務省や中央銀行との取引が一切禁じられている。ただし、3月2日の米財務省外国資産管理室(OFAC)の通達で、投資家保護の観点から、債券あるいは株式の利子や配当、償還金受け取りは、例外的に5月25日まで米国金融機関に保有する口座からドルでの支払いが認められていた。
しかし、ウクライナ・ブチャでの民間人殺害の疑いへの追加制裁の流れにより、この許容期限が4月4日に繰り上げられ、米財務省報道官が、今後はロシア政府が米国金融機関に保有するドルを利用したロシア国債の元利払いを禁止する方針を発表した。そのため、米財務省は4月4日以降のロシア政府の米国金融機関経由による送金処理の許可を出さず、(これ以降の)支払期限となる国債の償還・利払いを投資家が受けることができなくなった。
ところが、である。土壇場の4月29日、ロシア財務省はドルで支払いを行い、西側市場参加者の定義する「デフォルト」を回避した。米国制裁対象外のロシア住宅ローン公社のドル準備金を利用し、制裁措置に違反せずに支払えた。つまり、凍結されていない口座にドル資金の余力があったということになる。
ただし、この支払いには猶予期間中に発生した利息、約190万ドルは含まれていなかった。このため当該ロシア国債の海外保有者は、この利息に関し、CDSの損失補填支払いを発生させる信用事由に相当するかどうか、CDDCの判断を求めた。その結果6月1日にCDDCは、(国債そのものの利息ではない)190万ドルをデフォルトと認定したのである。なお、メディア各社もこの発表をどのように説明するのか相当苦労していたようだ。100年ぶりの「デフォルト」とは報道せずに、「支払い不履行(failure to pay)」という表現で、認識を擦り合わせていたように見受けられる。
続々と訪れるドル建てロシア国債の償還期限
さらにこの問題を複雑にさせるのが以下の点であろう。米財務省が全ての特例について5月25日に失効し、財務省はその更新をしないと発表した。ようするに米国金融機関だけでなく、全ての銀行による米国内でのドル建てのロシア国債の元利払いを禁止した。
ロシアのシルアノフ財務相は、米国の制裁によって本来のドルでの支払いができなくなるので、ルーブルによって返済義務を履行するとの方針を示し、支払い能力と意欲はあるため、デフォルトとは認識しないと発言している。またロシア財務省は以前に、額面100%で期限前に償還するやり方で、外貨建てロシア国債をルーブルで返済する方法も試している。この期限前償還は自発的なもののため、ルーブルで返済してもデフォルトとは認定されない。しかし、3月末時点で、海外投資家にはルーブルをドルに両替したり、ロシアから資金を引き出したりすることができるか確証がなかったため、期限前償還に応じる人はほとんどいなかった。
一方、5月4日、欧州委員会は3月9日以前に発行された外貨建てロシア国債に対するロシア政府の返済は制裁対象にしないと発表している。そのためロシア政府が非米国の債券保有者に対し、ユーロでの債務返済の可能性を維持していることは朗報であろう。
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