ロシア軍の攻撃で破壊されたウクライナのアゾフスターリ製鉄所(写真:ロイター/アフロ)
ロシア軍の攻撃で破壊されたウクライナのアゾフスターリ製鉄所(写真:ロイター/アフロ)

 英国ではロシアによるウクライナ侵攻の余波で、身近なところにも思わぬ形での品不足の影響が発生している。代表的なのはフィッシュ・アンド・チップス店の減少であろう。英国ではどんなに田舎でも、ハイストリート(商店街)には必ず、フィッシュ・アンド・チップス店があり、衣にくるまれた白身魚のフライと揚げた棒状のジャガイモ(チップス)を売っている(日本の立ち食いそばのイメージである)。

 キリスト受難の日である金曜日に肉食を避ける習慣の名残か、フィッシュ・アンド・チップス店は金曜が特ににぎわう。学校給食も金曜日はフィッシュ・アンド・チップスとなる場合が多く、何を隠そう筆者も毎週欠かさず食べている。ここで利用されるタラやハドックといった白身魚の3割以上がロシア産である。

 またジャガイモ栽培に必要な肥料もロシア産に頼っているという。さらに、その魚やジャガイモを揚げるひまわり油の50%はウクライナから輸入している。これらは戦争による供給制約により、価格が高騰しており、ドミノ効果で菜種油やパーム油の価格も上がっている。大手スーパーではひまわり油の購入個数に制限を設定するなど、新型コロナウイルス危機時のパニック買いをほうふつとさせる事態も起きている。

 原材料が高騰し、採算が合わなくなっているため、フィッシュ・アンド・チップス店は大幅な値上げをするか、あるいは閉店かといった厳しい選択を迫られている(メニューを変えるという選択肢もあることにはあるが……)。英国全土で多くの小売店がどんどん廃業に追い込まれているのが実情であり、英国の食品業界団体はこのまま必需品の不足が続き、政府が対応しなければ、小売店の3分の1が閉店せざるを得なくなると警鐘を鳴らしている。

 また、コロナ危機に端を発したサプライチェーンの混乱が完全に回復しないところに戦争が起き、英国ではますます新車が購入できない状況が続いている。筆者は以前から新車・中古車価格のチェックと、ブレグジット(英国のEU離脱)後の欧州サプライチェーン状況の実地リサーチを兼ね、様々な大手自動車ディーラーに定期的に顔を出している(単に試乗したいだけかもしれないが……)。

 侵攻開始後はさらに中古車はディーラーショップに入ってきた瞬間に買い手がつくといった状況であり、使用状態が良い車はほとんど残っていない。新車を予約しても納車まで1年近く待たされるので、つなぎとして同一モデルの型落ち中古車を買う人が続出しているためである。しかも、中古車価格の上昇により、型落ち中古車ですら、購入価格より高い金額で売却できるため、ちょっとした短期運用商品のような状況になっているという。某大手英国車ディーラーの担当者は「30年近く勤めていて、こんな現象は初めて」と驚いていた。

 英国では2022年4月に大手自動車メーカーが一斉に3~5%程度の新車の値上げに踏み切ったが、原材料等のコストがそれ以上に上がっているので焼け石に水であり、ウクライナ侵攻が長期化すれば、来年はさらなる値上げ幅を予定しているとのことである。英国中銀(BOE)は22年後半にはインフレ率が10%を超えると予想しており、まだまだインフレは収まりそうにない。

次ページ アゾフスターリ製鉄所の悲劇が欧州自動車メーカーに余波