中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月、ロシアを訪問しプーチン大統領と会談した(写真:SPUTNIK via REUTERS)
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月、ロシアを訪問しプーチン大統領と会談した(写真:SPUTNIK via REUTERS)

 5月9日のロシアでの対独戦勝記念式典の模様は今年も多くの国で報道された。筆者も画面越しに確認したところ、記念式典の流れには何ら変わりはない。映画「遠い日の白ロシヤ駅」の挿入歌、「求めるのは勝利のみ(通称、ベラルーシ駅の歌)」をアレンジした行進曲が流れる中、ナチス・ドイツのヒトラーからの解放を祝い、ナチス侵攻によってロシアが被った軍民双方の甚大な犠牲を悼み、悲劇が繰り返されないよう現在の軍事力を誇示した。

 ちなみにベラルーシ駅は、筆者がモスクワを訪れるときによく買い物をする市内のトヴェルスカヤ通りを上り切ったところにある。行進曲は、この駅からナチスドイツとの戦いに行った出征兵士を鼓舞・礼賛するための曲であるが、ロシアでは世代を超えてよく知られている。ご存じの方は少ないかもしれないが、モスクワにある長距離列車が出る駅の名前は、目的地の駅名となっているケースが多い。モスクワからサンクトペテルブルク(旧レニングラード)に向かう列車が出るのは、「レニングラード駅」といった具合である。

 装甲車を運転する若手兵士の胸にある最新の勲章が映し出されたため、昨年と同様に、ウクライナでの特別軍事作戦に従事している兵士も式典に参加していることが分かる。例年であれば、ナチスドイツ撃破の象徴である第2次世界大戦中に使われた戦車、T-34の後に、戦車や歩兵戦闘車などを含む軍用車両約200台が続き、ロシアの軍事力を示す近代的な武器システムの展示を伴う大規模な軍事パレードが続く。

 しかし今回は、式典の数日前にプーチン大統領暗殺が目的とされるクレムリン宮殿へのドローン攻撃が起きたことを含め、それまでの数週間に国内で爆発や破壊工作が続いたため、安全保障上の理由で式典は規模を縮小して実施された(なお、ウクライナは再三にわたり、クレムリン宮殿へのドローン攻撃への関与を否定している)。

 赤の広場を通り過ぎた戦車はT-34のたった1台で、装甲車や対空ミサイルは数台のみの寂しい行進となった。式典で展示されたのはわずか10種の武器システムにとどまり、固定翼機やヘリコプターが用いられる恒例の儀礼飛行も全面的に中止された。また赤の広場を行進したのは8000人の軍人と、2008年以来の規模の小ささであり、ロシアで新型コロナウイルスの感染爆発が起きてから6週間後にあたった20年の式典時よりも少なかった。規模縮小は事前に示唆されていたものの、ここまでの縮小は予想外であり、国外の反応は大きかった。

バフムト掌握を巡りロシア軍とワグネル・グループの対立が再燃

 ウクライナのドンバス地方西端に位置するバフムト掌握を巡る戦いが激化する中、戦闘に参加しているロシアの民間軍事会社、ワグネル・グループは戦場のみならず、ロシア国内でも存在感を高めつつある。しかも、同グループを率いるプリゴジン氏とロシア国防省との対立は、戦術や戦略、兵士に関し、異例なまでに表立ったものになっている。オンラインに流出した米機密文書によれば、プーチン大統領は2月後半にプリゴジン氏とショイグ国防相との面談を設定し、関係改善を図ったという。

 しかし、バフムトに対するロシア軍による支配が優勢になりつつあることで対立が再燃した。プリゴジン氏はこれまでにも同グループの部隊撤退をちらつかせたことがあったが、ここ最近、交流サイト(SNS)に投稿された動画での感情的な言葉と、特別軍事作戦を指揮するロシア軍幹部に対する痛烈な個人的批判は前例のないものだった。プリゴジン氏はバフムトでの状況を巡り、ロシア軍が同グループに必要な弾薬の3分の1しか供給しないことへの不満を示し、前線からの同グループの部隊撤退をちらつかせていた。5月1日は同グループの創設記念日だが、同社がその日に滅びる運命ならば、ウクライナ軍ではなく、ロシアの役人のせいだとまで皮肉っていた。

 特別軍事作戦を統括するゲラシモフ総司令官は5月の軍事パレードにも参加していたが、激戦地で戦うプリゴジン氏は招待すらされもしなかった。プリゴジン氏のロシア軍に対する厳しい批判はそのいらだちの表れではないかともいわれている。

 プリゴジン氏は、ワグネル・グループの作戦に関する全ての決定は、戦術を理解している唯一のロシア軍将軍、スロビキン将軍が行うべきだと述べた。冷酷さで知られるスロビキン将軍は記念式典の4カ月前に、ウクライナ侵攻の総司令官の座から降りたばかりである。スロビキン将軍退任後、総司令官に任命されたゲラシモフ氏をプリゴジン氏はこれまで何度となく批判している(スロビキン将軍は現在ゲラシモフ総司令官の補佐に回っている)。一方、チェチェン共和国のカディロフ首長は、必要に応じ、バフムトに配下の民兵を派兵する準備をしていると述べ、民兵は即応状態にあり、指示を待つばかりとした。

次ページ 対ロシア輸出規制にはG7で温度差