欧州委員会のフォンデアライエン委員長は4月上旬ウクライナ首都のキーウ(キエフ)を訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した(写真:ロイター/アフロ)
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は4月上旬ウクライナ首都のキーウ(キエフ)を訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアで最近流行しているのは「マクロンする(Макронить:マクロニチ)」という用語である。その意味は“用もないのに電話をする”ということらしい。ロシアのウクライナ侵攻の直前に何度となくプーチン・ロシア大統領と電話会談を持ったにもかかわらず戦争を止められなかったことを揶揄(やゆ)した用語だが、マクロン・フランス大統領がロシア人から親しみを持たれていることの裏返しともいえる。

 4月のフランス大統領選でロシア世論が応援していたのは、意外にもプーチン大統領を敬愛し、北大西洋条約機構(NATO)離脱を掲げるルペン候補ではなかったということも理解できる。プーチン大統領は選挙直後に、再選を果たしたマクロン大統領に対し、「国務での成功、健康や幸福を祈る」と祝福のメッセージを寄せている。

 フランスとロシアは従前から特別な関係にある。露仏同盟はいうまでもなく、フランス革命で多くの貴族がロシアに亡命し、ロシア貴族の間でフランス熱が高まり、フランス語が貴族階級の非公式言語になった歴史的経緯もある。プーチン大統領は、マクロン大統領に対し、主要7カ国(G7)はもとより、西側諸国におけるロシアの窓口としての役割を期待していたのかもしれない。マクロン大統領は2017年にベルサイユ宮殿へ国賓として招待するなど、この5年間で、3回もプーチン大統領をフランスに招いた上、18年サッカーW杯開催時を含めモスクワを2回訪問し、プーチン大統領との関係構築に努めてきた。

 最後に両者が対⾯したのは22年2⽉7⽇のロシア⼤統領官邸であり、12月から侵攻前までは、軍事緊張緩和に向けてなんと18回も電話をしている。侵攻後も停戦に向け対話のチャネルを絶やさず、ウクライナのキーウ近郊ブチャでロシア軍による多数の⺠間⼈殺害疑惑が浮上する直前、22年3⽉29⽇にも電話している。ただし、侵攻 が新たな⽅向に転じたとして、マクロン⼤統領はそれから一時プーチン⼤統領との直接的な対話を中断した。

 それでも、将来的な対話の可能性は排除せず、5月3日になってようやく電話が再開された。世界情勢からの孤⽴を深めるロシアにとって、対話を継続させるフランスは重要な意味を持つ国 であることは確かであろう。

ウクライナ軍の反転攻勢が進むも、侵攻長期化の懸念は消えない

 ロシアのウクライナ侵攻は戦術的には失敗であり、ウクライナ国内のみならず世界中の反ロ感情を強める結果となった。さらにNATO拡大につながる可能性もある上、ロシアへのエネルギー依存について西側諸国の再考を強いる事態にもなっている。

 今やウクライナ侵攻は長期化が予想されているが、英国情報機関はプーチン大統領率いるロシアが依然として戦争に優勢であり勝利するとの見方を崩していない。侵攻開始後の2カ月、ロシア政府はロシア軍に関し戦術的な調整を行ったとみられている。特に、同情報機関は、ウクライナ東部において、ロシア軍はウクライナ軍より数的優位に立ち、相当数の軍事施設を包囲し、「破壊」できると警告している。

 東部ドンバス地方の主戦場は、キーウ北部の森林に比べ平たんで土壌が硬く、ロシア軍の迫撃砲や戦車にとって有利とみられている。プーチン大統領は熟練司令官、ドヴォルニコフ将軍を投入し、同将軍はハルキウから南に、またルハンシクから北へとロシア軍を押し進め、ウクライナ軍を挟み込む陣形を取ろうとしていた。

 このため、ロシア軍がウクライナ軍を包囲し、かなりの時間をかけて壊滅させる現実的な可能性が懸念されていた。これが実現すれば、プーチン⼤統領が勝利宣⾔するに⾜る戦果とみられていたが、ウクライナ軍は5月に入り、激しい反撃によりハルキウ市郊外から国境まで数キロの地点までロシア軍を撤退させた。ロシア軍のハルキウ州からの撤退で戦闘の勢いが変わる可能性があることは確かだ。

 ただロシア軍もさらなる兵力増強に動くと見られており、最悪のシナリオでは、キーウへの攻撃を再開することや、キーウから⿊海へのアクセスを奪うことなど、更なる長期化も予想されている。

 なお、英国のジョンソン首相は4月22日に訪問先のインドでの記者会見で、ウクライナ戦争が2023年末まで続き、ロシアが勝利する「現実的な可能性」があることを認めた。ただ、首相は数週間前となる3月のNATO首脳会議に際し、プーチン大統領がウクライナ侵攻に失敗することが西側諸国の平和や繁栄にとって重要であると述べ、プーチン大統領は失敗しなければならないし、失敗することになると発言したばかりだった。

 また、侵攻開始以来、G7首脳はロシア敗北に向け見解を統一していたが、それとは大きく一線を画すコメントとなった。それでも、ジョンソン首相はプーチン大統領に次々と圧力をかけるために、西側諸国が軍事的、経済的にもっと何ができるかを考える必要があると述べ、これまで消極的だったウクライナ政府への装甲⾞両の直接供与に関し、ポーランド経由での供与を検討していることを再度⽰した。

 4月25日には、ポーランドのモラヴィエツキ首相が、ポーランドがウクライナへ戦車を供与し、その代わりに英国から装甲車両を受け取ることを認めている。ただし供与の数などについては明言を避けた。

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