英国のサッカーファンは、欧州スーパーリーグ構想に抗議している(写真:AP/アフロ)

 小中高とサッカー漬けであった筆者が、初めて欧州トップチームの試合を生で観戦したのは、1984年のトヨタヨーロッパ/サウスアメリカカップだった。欧州と南米のクラブ王者のチームが世界一の座を懸けて戦う同大会の通称はトヨタカップ、現在のFIFAクラブワールドカップの先駆けとなっている。当時のサッカー応援の必需品であった銀ラッパ(南アフリカのブブゼラではない)を持参し、胸を弾ませて国立競技場へ行き、テレビでしか見たことがなかった欧州トップチームのプレーに感動したものだ。

 応援していたリバプール(英国)が、インデペンディエンテ(アルゼンチン)と対戦し、リバプールが敗れクラブ王者の称号を逃したことは今でも忘れはしない。ただそれ以上に、「レッズ」の異名をとるリバプールが、ホーム用の赤色ユニホームではなく、アウェー用の黄色ユニホームで登場したことが悔しかった思い出がある。さらに翌1985年にユベントス(イタリア)が来日した同大会もスタジアムで観戦し、当時のフランス代表、ミッシェル・プラティニの、切り替えしながらのボレーシュートを目前で見たことは、筆者のひそかな自慢である(オフサイドと判定され、幻の得点となったが、当時、まねして毎日練習した)。

 トヨタカップは欧州で最も権威のあるUEFAチャンピオンズリーグ(以下、チャンピオンズリーグ)の覇者と南米クラブ王者の対戦だったが、このチャンピオンズリーグに強豪クラブが反旗を翻す事態が起きている。4月18日、米系投資銀行から約32億5000万ユーロ(約4260億円)の資金支援を受けて、チャンピオンズリーグに代わる、欧州スーパーリーグ(ESL)の創設に、(トヨタカップで見たリバプールとユベントスを含む)12クラブが合意を表明した。ESLの試合は平日に行われ、各クラブは国内リーグからは脱退しないものの、チャンピオンズリーグには不参加となる。

 この背景には、2024年シーズンから採用されるチャンピオンズリーグの新たなフォーマットへの不満がある。2024年から、出場チームは4つ増え36となるが、8組に分かれて行うグループステージはなくなる。参加資格のある全チームで同一のリーグで順位を争う。UEFAランキング係数を基にホーム&アウェー方式で10試合行い、順位を決定する。1~8位はラウンド16に進出し、9~24位が残り8枠を巡りプレーオフを行う。出場枠の拡大だけでなく、試合数も100以上と大幅に増える(より収益性の高いトップチーム間の試合も増える見込みである)。

 ESL創設発表は、このようなチャンピオンズリーグの抜本的な改革を阻止するためのものという。4月19日、チャンピオンズリーグを運営する欧州サッカー連盟(UEFA)は年次総会で、予想通り改革案を承認している。さらにこれに先駆け、欧州のトップチーム200超を代表する欧州クラブ協会(ECA)の会合でUEFAの改革案が協議された。ECAはUEFAが提案したフォーマットで改革を進めることに合意はしたものの、改革案についての不満が広がっていた。

 特にESL創設に合意した12の強豪クラブは、ほとんどが各国の代表クラスで構成され、代表戦と国内リーグ・カップ戦の過密日程に、UEFAの改革案が加われば、選手の身体は悲鳴を上げるのは確実で、誰も得をしないと考えている。試合数が増えても、リーグ優勝の賞金は増えず、放映権料が増えることにより得をするのはUEFAとチームオーナーだけとされるためだ。

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この記事はシリーズ「菅野泰夫のズームイン・ズームアウト欧州経済」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。