英国では制裁の副作用で燃料代が高騰、燃料泥棒も続出

 英国を含む欧州ではロシアのウクライナ侵攻により1970年代のオイルショックに相当するエネルギー危機に直面していると言っても過言ではない。現在の卸売価格の高水準はまだ全ての消費者には及んでおらず、今後も小売業や製造業にとっては大きな脅威となる。

 ただし70年代は、簡単にエネルギー効率向上を実現できる手段が多くあったうえ、価格メカニズムを一因に危機は去った。また北海油田の採掘や、ロシアからのエネルギー輸出も始まったばかりであった。現在はこのような迅速に利用できる選択肢がなく、省エネに関しては消費者や自動車を運転する人の自主性に期待することしかできないことも経験則上判明している。

 このため政府は半ば強制的な省エネ対策実施の必要性に迫られている。現在、欧州各国が検討している案のひとつは、累進的な価格付けであり、消費すればするほど価格が高くなるように設定するものである。またもうひとつは、燃料の配給制と言われている。既に、3月14日の英国議会の財務省特別委員会では、供給への問題やエネルギー市場での不安定さが拡大していることから、近い将来ディーゼル燃料やガスが配給制になる可能性が示唆されている。その他の欧州各国では(ロシアとウクライナが停戦しなければ)4月末までにディーゼルの配給が始まるかもしれず、既にドイツなどでは石油卸売業者が顧客への販売を制限している。

 特に燃料危機はしばしば、英国政治史の重大な瞬間を示してきた。56年の第2次中東戦争によるスエズ危機では一時的に燃料が配給制となった。さらに73年の第4次中東戦争により、石油価格は300%以上上昇し、ガソリンスタンドには長蛇の列ができ、この時も配給制導入案が浮上している。現在の状況は、イラン・イラク戦争が起きた80年代後半までの世界の石油価格に影響を与えた状況におそらく最も近いといわれている。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー政策への影響は、その時よりもはるかに大きくなる可能性がある。

(出所)ofgemより大和総研作成
(出所)ofgemより大和総研作成
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 今後は、自家用車の利用を減らし、通勤する代わりに一定期間は在宅勤務に切り替える場合も少なくない。とはいえ、在宅勤務による光熱費の増大もばかにならない。既に英国では、子供の習い事や友達との遊びに車で送迎することが少なくなり、宅配サービスも打撃を受けている。賃金よりもコストの方がはるかに高いと、ストライキを起こす宅配ドライバーもいる。

 また英国では住宅の外置き石油タンクが壊され、石油が盗まれるという事件が続発している。ガソリンスタンドで給油したのに料金を払わずに運転していく盗難被害は、前年比で200%増となっているという。組織犯罪者はより巧妙になり、特殊なポンプを利用し、大型トラックの燃料を数分で空にしていくという犯罪も横行している。

制裁の影響はフランス大統領選にも

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