英国のEU離脱でロンドンの金融街の地位が低下している(写真:ロイター/アフロ)

 英国では新型コロナウイルスのワクチン集団接種プログラムが順調に進み、新規感染者数や入院患者数、死亡者数は急速に減少している。2月22日には、ジョンソン首相がロックダウン措置を段階的に解除し、6月21日までに広範な社会的接触に関するルールを全廃することを目標とした、4段階からなる出口戦略を発表した。(筆者も娘の通学を心待ちにしていたが)第1段階となる3月8日からは、ほとんどの学校で対面授業が再開されている。

 一方、コロナ危機が順調に収束に向かっていることから、保守党議員の一部からは、各段階を5週間間隔としている出口戦略を前倒しして進めるべきだという圧力がジョンソン政権にかけられている。ジョンソン首相は、出口戦略にあたり日付ではなく、データを重視する方針を強調している。ただスコットランド自治政府のスタージョン首相も、データから制限措置の緩和を早めることが可能と示されるのであれば、出口戦略で規定された開始日にとらわれるべきではないと主張している。

 しかし、科学者や医療関係者は、新型コロナウイルスを撲滅することは難しく、何かしらの制限措置が来年の冬まで継続される可能性を示唆している。イングランドのウィッティ首席医務官は、出口戦略を前倒しすれば、感染拡大の第3波がより深刻なものになる恐れがあるとし、慎重な対応の必要性を強調している。医務官によれば、英国の第3波到来は、今年の夏以降、出口戦略に従い制限措置が解除された段階での国内におけるウイルスのまん延状況やワクチンの予防効果、さらにマスク着用や手洗い、検査・追跡システムといった措置によって左右されるという。

金融サービスは実質的な「合意なき離脱」となる

 コロナ危機を受け、英国では2020年に経済が約300年間で最悪となる9.9%のマイナス成長を記録した。ロックダウン措置の早期解除を求める声が上がる背景には、制限措置により休業を余儀なくされているセクターの早期再開によって、企業破綻を回避し、迅速な経済回復を目指す必要性が挙げられる。2020年の成長率の落ち込みは、世界金融危機時の倍以上となり、コロナ危機が与えた甚大な影響がうかがえる。

 さらに英国は2021年にEUからの完全離脱(ブレグジット)を果たした。EUとの(包括的通商協定を含む)将来的な関係性を巡る協定交渉は、2020年のクリスマスイブに合意されたが、協定の対象は最小限にとどまっている。サービス部門は協定交渉の対象からほぼ外され、これからEUと果てしない議論が始まることになる。特に金融サービス分野は、同等性評価も獲得できておらず、実質的な「合意なき離脱」が起きている。

 ただ英国は単一市場から離脱との方針を定めていたため、協定合意の有無にかかわらずEU金融市場へのアクセス(金融パスポート)を失うことは、既定路線だった。金融街シティーは欧州における圧倒的な金融ハブでありながら、EU単一市場の一部ではなく、EU規制の対象外になり、非常に複雑な立ち位置になる。英国とEUは3月に金融サービスにかかる覚書の締結を目指しているが、同等性評価がすぐに付与されるという期待は既に薄れている。EUは域内市場やユーロ建て資産を、EUとは異なる優先順位を持つ海外の規制当局の手に委ねることに前向きではない。

 EUの政治家の多くは、ユーロ圏債務危機の際に、英国を拠点とする清算機関LCHクリアネットが、スペイン、アイルランドおよびポルトガル国債取引にかける保険金を大幅に引き上げたために、危機が深刻化したと信じている。このように英国に対するEUの信頼度はかつてより低く、交渉中の威圧的なアプローチは両者の関係をさらに悪化させている。

続きを読む 2/2 欧州の金融街アムステルダムの復活に焦る英国政府

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