
モスクワの知人と話すと、ウクライナとの戦争に対する意識の変化を感じとれる。追加動員兵の効果も大きく、ウクライナ東部の要衝、バフムト陥落まであと少しとなっている状況は、前線や政府内にとどまらず国内でも広く共有され、表面的には戦争への肯定感が増加しているように見える。
特に若者の間でその傾向が顕著とのことで、一時期高まっていた反戦機運はやや収まりつつあるという。ウクライナのゼレンスキー大統領はバフムト死守の姿勢を貫いているが、2万人近いウクライナ兵がロシア軍にほぼ包囲された状態となっており、このままいくと第2のマリウポリとなる可能性が高いと懸念されている。
ロシア軍がバフムト掌握に成功すれば、2022年初夏のセベロドネツクやリシチャンスク制圧以来の主要な戦闘勝利となる。さらに3月末までにドネツク州全域制圧というプーチン大統領の命令達成への後押しになる可能性もある。多大な戦果をけん伝し24年3月の大統領選を有利に進めることができるという大統領の思惑どおりとなるかもしれない。
ただし反戦運動沈静化の背景には、新たに成立した検閲法で言論統制がさらに進んだこともあるのは確かだ。ウクライナでの「特別軍事作戦(Special military operation)」を、「戦争(War)」と表現するだけでも即投獄につながる犯罪と見なされる危険がある(戦争と表現することは、軍部の信用失墜につながるという理由で最大15年の投獄が可能となっている)。
旧知のロシア人が言うには、魔女狩りをほうふつさせる状況が頻発し、まるで中世に戻ったようとのことだ。ジャーナリストや作家はもちろん、大学教授、シンクタンクなどの研究者など学識者も厳しい取り締まりの対象になりつつある。当局は、戦争に関する発言を犯罪化し、一連の逮捕や不相応に厳しい懲役刑を命じメディアへの弾圧を強化している。
これによってロシアの独立系メディアは崩壊し、大方のジャーナリストや活動家は国外に逃亡するか、服役するかの2択となった。警察は同法を根拠に庶民の街角やオンライン上での反戦コメントすら取り締まりの対象にしている。このように前例を見ないほどの弾圧のため、戦争に対する世論の支持の度合いを正確に測ることは極めて難しくなっている。
独立系調査機関、レバダセンターが行った22年の世論調査では、8割以上がウクライナ侵攻を支持していた。ただし回答率が非公開なため(実際には10~25%と推測されている)、回答者層に偏りがあると考えることもできる。同時期に行われた別の調査では、単なる支持、不支持を回答させるのではない設問にしたところ、侵攻支持は53%という結果になったものもあるという。
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