2020年12月、EU首脳と中国の習近平国家主席は、包括的投資協定(CAI)の締結で大筋合意した(写真:新華社/アフロ)

 米英が欧州連合(EU)への懸念を強めつつある。発端は、EUが2020年12月30日に中国と包括的投資協定(CAI)の締結で大筋合意したことだ。同協定は、世界第2の経済大国である中国で活動する欧州企業のビジネス環境を改善し、中国に対し欧州と協力するためのインセンティブを提供するものである。

 とはいえ、その内容はトランプ政権が2020年1月に調印した第1段階の経済・貿易協定にようやく追いつくようなものにすぎない。EUは大筋合意の偉業を達成したかのように自画自賛しているが、その裏では、中国依存という大きなリスクが改めて浮き彫りになっている。

 EUと現代中国との関係は、1975年の国交樹立にさかのぼる。2003年のEU・中国包括的戦略的パートナーシップ策定により両国間の協力関係は深まり、広範な分野における双方の依存が強まった。CAI交渉のスタートは、12年2月にEUと中国の間に投資協定の交渉開始について政治合意がなされたことである。13年10月にEUの交渉方針が決定し、14年1月より約7年間にわたり、35回の交渉ラウンドを重ね、20年末までという交渉期限の直前にようやく大筋合意となった。21年1月には、CAI草案が公開され、3月上旬までに残りの付属書が公開される予定となっている。

 土壇場での大筋合意の背景には、過去数年、中国からの対EU投資が加速度的に増大していることも挙げられる。欧州委員会によれば、中国の対EU海外直接投資は累積で1200億ユーロ(約15兆円)に上り、特に戦術的分野である通信インフラや5Gなどの高度技術に集中していることが特徴である。一方、EUの対中国投資はこれを上回る規模であり、特にドイツの自動車産業界がけん引役となり、製造業からの投資が集中している。

 CAIではEU企業の中国投資に対して、自動車分野(電気自動車やハイブリッド車含む)でのジョイントベンチャー(JV)要件といった障壁が、段階的に撤廃される。さらに金融サービス(保険やアセットマネジメント)やヘルスケアといった分野での合弁および株式保有制限の撤廃も含まれ、中国市場へのアクセスは相当に改善される。中国政府の技術移転の強制に関し、明確なルールも設定されている。

 ただし、協定の詳細な付属書は公開されておらず、これらのコミットメントがどのようなものとなるかは、まだ判断できない。さらに、JV規制や株式保有制限は市場アクセスにおいて、著しい障壁にはなるものの、唯一の障壁というわけでもない。中国に進出した外資企業は、事業を行う上で本国とは違い、中国当局からの認可・承認のプロセスに時間がかかるという障壁に直面している。また中国企業は多大な補助金に加え、様々な財政支援を国から受けており、外資企業が中国企業と競争するのは非常に難しくなりつつある。CAIではサービスセクターにおける補助金の透明性に関する規定が含まれているものの、他の補助金に対する調停メカニズムにはそもそも強制力がない。

 2015年に習近平(シー・ジンピン)指導部が発表した新エネルギー自動車など10重点分野における産業政策である、「中国製造2025」は大きな波紋を呼んだ。2025年までに製造強国入り、2049年の建国100周年までに製造強国のトップグループ入りという目的達成に向けたロードマップによって、中国脅威論も強まった。在中国EU商工会議所は2017年に「中国製造2025」に関して「市場よりも産業政策を優先」という内容の報告書を発表し、中国市場を批判的に分析していた。しかし、今回の合意でこのような批判的な見方は過去のものになりつつある。

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