ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年がたとうとしている。ロシアの大規模動員や、西側諸国の戦車供与は戦況にどのような影響を与えるのか。ロシアの大攻勢の準備が報道される中、今後の展望をお伝えする。(日経ビジネス電子版オーディオ「大西孝弘の日本と欧州の交差点」の21日配信の回にもゲスト出演し、ウクライナ戦争の展望を語る)。

ドイツのピストリウス国防相は2月初旬、ウクライナに供与する戦車の性能を視察した (写真:ロイター)
ドイツのピストリウス国防相は2月初旬、ウクライナに供与する戦車の性能を視察した (写真:ロイター)

 2023年2月24日でロシアによるウクライナ侵攻が始まって丸1年が経過する。モスクワの知人と話すと、ロシア国内でも本格的な(ロシア本土での)戦闘への備えが進んでおり、緊迫度が高まっていることが伝わってくる。

 ロシア国防省のビルの上に迎撃ミサイルが既に配備されていることは日本でも報道されたと思うが、市内の至る所でも迎撃ミサイルの配備が始まり、いつ大規模な空爆があってもよいように準備されているそうだ。知人はコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)や家族の安全確保などの方策を急ぎ練っているという。

 また現時点では、在英の英国・ロシアの二重国籍者は、さまざまな経路でロシアに入国できている。ただ、いつ戒厳令が発動され、出国できなくなるか分からなくなっているため、商用目的であってもロシア渡航を自粛し始めている。それは二重国籍者(および永住権所有者)でも、ロシア帰国時に軍事動員される可能性があり、戦場に送られても英国政府の助けは期待できないからだ。ロシア政府は依然としてウクライナ侵攻を特別軍事作戦であると主張しているが、国内はまさしく戦時下といった状況のようである。

統計機密化でロシア経済の実態はつかめず

 そのような状況にあるロシアでは1月17日に、プーチン大統領はロシア中央銀行や経済閣僚との会合で、ロシアの2022年の国内総生産(GDP)成長率は前年比マイナス2.5%との見通しを示した。最悪の制裁を切りぬけたと主張した国際通貨基金(IMF)や世界銀行、経済協力開発機構(OECD)などの国際機関による見通しもプーチン大統領が示した数値から大きく離れてはいない。

 IMFが1月末に発表した世界経済見通しでは、ロシアの2022年のGDP成長率は前年比マイナス2.2%と推定されており、マイナス3.2%という当初の予測を確かに上方修正している。これらの見通しが正しければ、ロシアはGDPの規模がウクライナ侵攻前の10~15%あるいは20%縮小という、多くのロシア国内の識者による悲観的な経済予想を覆したことになる。

 プーチン大統領はまた、雇用市場も安定しており、失業率が4%未満であると指摘した。しかし彼は、実際には侵攻開始以降、数十万人の労働者が国外に逃避し、現在30万人とされる動員兵が「就労者」にカテゴライズされている点については触れていない。ロシアは西側諸国の制裁の効力を数値として顕在化させないために、海外貿易データを含む広範な経済統計を非公開としたため、ロシア通であっても経済の実態をつかむことが難しくなっている。

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