エルトン・ジョンなど英国のミュージシャンは、欧州連合(EU)域内でのコンサートに懸念を表明している(写真:ロイター/アフロ)

 バブルの頃に高校生であった筆者の年代の方なら、当時のバンドブームを受け、ギターでブリティッシュロックを奏でたことが一度はあるのではないだろうか。筆者も例にもれず、どっぷりギターにハマり、最初にコピーした曲は、ディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」とオジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」である。

 英国はロックファンにはたまらないイベントが満載であり、夏に自宅の窓を開けると野外ライブ会場となっているハイドパークから、ローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」が聞こえてくる、などというラッキーなこともあった。アビーロード沿いに住んでいたときは、娘の小学校の合唱曲がビートルズの「オクトパス・ガーデン(アルバム『アビイ・ロード』に収録)」だったことに感動したものだ。

 近所でデュア・リパが出没したり、いつも買い物をするスーパー横のパブは、ライブ演奏の際に駆け出しのシンガー・ソングライターだったエド・シーランがよく登場した店(今でもお忍びで演奏しに来るそうだ)であったり、英国には音楽好きが秘密に楽しめる観光スポットも多い(ちなみに筆者のお気に入りのラジオ局は、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を最初に流したことで有名なキャピタルFMだ)。

 そんな英国のミュージシャンに、英国の欧州連合(EU)正式離脱で大きなピンチが訪れている。移行期間終了まであと1週間に迫った2020年12月24日、英国とEUはついに、通商協定を含む将来的な関係性を巡る交渉で劇的な合意に至った。これにより、財の貿易は関税ゼロが維持されることになり、国境検査によるドーバー海峡の混乱が避けられたことは日本でも報道されていただろう。

 ただし実際の協定内容は、実質10カ月の突貫工事で作成された感が強い。サービス貿易に関しては限定的な合意に留まり(金融サービスに至っては実質上の合意なき離脱)、外交政策や対外安全保障協力に関しても継続協議となっている(要するに何も決まっていない)。様々な分野で、これからも長い年月をかけて交渉が行われていくと予想されている。

 その中で、筆者の最も気になったのが、英国のミュージシャンが査証(ビザ)や労働許可証がなくともEUでコンサートツアーを行える取り決めがなされなかったことである。英国人のEU短期商用訪問については、査証不要で滞在できる年間180日のうち合計90日以内と協定で合意されている。ただし、ミュージシャンやサッカー選手などは、この査証免除の対象とされる職業リストに含まれなかった。このため、英国のミュージシャンがEUツアーを行う際には、査証が必要になるうえ、加盟国の規定によっては、労働許可証の取得も必要になる(しかも、同行するマネジャーや技術スタッフなども同様である)。

続きを読む 2/2 英国の大物アーティストたちが英政府に対応を嘆願

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