コロナ禍をきっかけにした大手企業の地方移転は、淡路島に移る人材派遣のパソナグループが目を引くが、表立った動きにはなっていない。ただ、JLLの山口氏は水面下での検討が今後、具体化してくる可能性はあるとみる。「天神は福岡空港から地下鉄で10分強と抜群の立地。賃料設定が坪2万円台半ばぐらいで決着すれば、東京・丸の内で坪5万円、大阪・梅田で坪3万5000円を払うのなら、福岡・天神にという企業が出てきても不思議ではない」と解説する。
既存企業に加え、福岡を創業の地として選択する起業家も増えている。市による創業支援の拠点「福岡市スタートアップカフェ」に寄せられる相談件数は、1カ月に350~400件程度とコロナ前の2倍近く。創業の報告も11月末時点で63件に上り、18年の実績である53件を上回っている。

小規模オフィスはむしろ逼迫
スタートアップカフェでコンシェルジュを務める佐藤賢一郎氏は「コロナ下でリモートワークになったり、大学がオンライン授業になったりしたことで、考える時間が増えたことが創業に踏み出すきっかけになっているようだ」と説明する。
受け皿となる小規模オフィスの需給も逼迫している。地元で築年数が40年程度の古いビル35棟をオフィスやギャラリーとして供給しているスペースRデザイン(福岡市)の吉原勝己代表取締役は「家族と共に東京から移住して、IT事業をベースにカフェや農業を営む。そんな人が増えている。35~45m2程度のスモールオフィスの需要は旺盛だ」と話す。
福岡市のオフィス市場全体を見た場合には、11月時点の空室率は前年の同じ時期と比べ1.53ポイント増の3.58%だが、「東京に比べれば上昇は小幅で、賃料の引き下げ交渉も起きていない。きっちりと日銭は稼げていて、総崩れにはなっていない」(地元不動産関係者)という状況にある。
不動産市場の長期低迷への始まりとなりかねないオフィス市場への大逆風。だが全国的に見れば、福岡のような例外的な勝ち組も生まれるかもしれない。
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