オフィスサービス大手のJLL(ジョーンズラングラサール)の山口武氏によれば、オフィス空室率を見る上で節目となるのは1%、3%、5%だという。「1%を割り込むと、どんな物件でも賃料が上がる。3%を超えると立地や設備がいいビルは埋まっても、悪いビルは埋まらない。5%を超えると全てのビルに空室が出てくる」(山口氏)。東京都心5区全体ではビルオーナーが賃料の見直しの検討を始める段階にあり、渋谷区では賃料引き下げに踏み切らざるを得ない段階に突入しているといえる。

 これまでは、オフィスの空室率は、失業率と相関関係があるとされてきた。東京ではIT(情報技術)バブルの崩壊やリーマン・ショックなど、経済危機に伴う倒産やリストラでオフィスワーカーが減ると、空室率が上昇し、景気が回復し失業率が改善すると、空室率が低下するということが過去に繰り返されてきた。

 だがコロナ下のオフィス縮小や解約の動きはこうした過去の流れとは、根本的に異なる。感染拡大当初こそ緊急避難的措置だったリモートワークだが、東京都心ではすっかり定着。コロナ禍を脱して景気が上向き、雇用情勢が改善してもオフィス需要が元通りになることは考えにくい。

 20年、新築戸建てや東京・湾岸エリアの中古タワーマンションの販売は堅調に推移した。だが今後、コロナ禍とそれに伴う不況が長期化すれば、こうした住宅市場もいずれ低迷期に入る恐れがある。オフィス市場に吹く逆風が21年以降に一段と強まれば、不動産市場全体が冬の時代に向かいかねない。

「天神ビッグバン」と呼ばれる再開発の一環で、福岡の中心部では21年以降、大型オフィスの大量供給が本格化する
「天神ビッグバン」と呼ばれる再開発の一環で、福岡の中心部では21年以降、大型オフィスの大量供給が本格化する

既存企業もスタートアップも目指す街

 では全国のあらゆる場所で21年以降、オフィス市場が縮小するかといえば、そうではない。距離の制約がなくなるリモートワークの定着に伴い、企業の間では、オフィスの縮小や廃止だけではなく、東京以外への移転を検討する機運も高まりつつあるからだ。

 東京都心に遠心力が働く中で、有力な選択肢として存在感を増しているのが福岡市だ。東京の半額以下という割安な賃料水準に加えて、00年代から市が創業支援に力を入れてきたことで、スタートアップの街として集積ができているのもポイントだ。

 「天神ビッグバン」と呼ばれる再開発の一環で、福岡の中心部では21年以降、大型オフィスの大量供給が本格化する。コロナ禍で景況の先行きが読みにくい中での大量供給で、オフィス余りを引き起こすとの懸念もあるが、賃料の設定次第では東京からのオフィス移転の受け皿となる可能性も秘めている。

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