2020年11月、29年半ぶりに2万6000円台を突破し、2万7000円台を目指して上昇を続ける日経平均株価。21年もこの流れは続くのか、それとも一過性の動きなのか、市場はこの話題で一色となっている。
19年末、多くの専門家が「五輪後の株価暗雲」を予測する中で、日本株躍進を予想していたのが楽天証券チーフ・ストラテジストの窪田真之氏だ。窪田氏は、20年初めに2万3000円台だった株価が、半導体関連などハイテク投資の復活などを受け、年央に2万6000~2万7000円をつけると予想していた。
厳密に言うと「20年末には調整が入り2万5000円になる」と見立てていたため、完全的中とまではいかなかったものの、「4~5年間の景気サイクルで見れば、20年の株価上昇は明らかだった」と窪田氏は語る。
20年3月にはコロナ禍を背景に1万6000円台まで急落した日経平均だったが、窪田氏は株価の早期反発はもちろん、緩和マネーによってバブル後最高値を更新する可能性もあると考えていた。結果はご覧の通りである。
そんなプロが予想する21年の株価はどうか。
「上昇するとみている。日経平均は3万円をつける可能性がある」。窪田氏はこう話す。
外国人投資家はまだ売り越し
根拠は、株価を左右させるといわれる日本株の外国人売買動向だ。10~11月については、積極的な購入により約2兆5000億円の買い越し(現物株と日経平均先物の合計)となったが、年間で見ると約4兆2000億円売り越している。依然、米欧の年金運用機関や中東の国家ファンドなどが買いに入る余地があるという。
また、日本株は投資家にとって、世界経済の動向に左右されやすい“敏感株”。コロナ禍が収束し世界経済が回復すれば、日経平均も当然連動する。
21年は10月の衆議院議員の任期満了までに総選挙が実施される。Go To キャンペーンなどコロナ対策を巡って支持率が揺れる菅義偉政権だが、携帯電話料金の引き下げなど、消費者目線の規制改革や成長戦略をスピード感を持って実行している側面もある。デジタル化などIT(情報技術)投資を推進していくとみられ、総選挙で政権地盤がさらに固まれば、株価を下支えする好材料になり得る。
窪田氏をはじめとする“日経平均続伸派”が心配するのはやはり、ワクチン開発や各国への普及が現状の想定以上に遅れることだ。コロナ禍に歯止めがかからず20年以上の惨事となれば、株価が一段と上昇するシナリオは崩れるとの見方だ。
もっとも専門家の中には、日経平均急落の可能性を示唆する声もある。ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏はその一人だ。
現状の株高は、コロナ禍における積極的な財政支出と金融緩和によって演出されたもの、というのが井出氏の基本的な考え。「株価は好調でも実体経済が回復しているとは到底思えない。企業の社員は失業こそ免れても給料が減っている。小売業や飲食店舗は営業を続けても売り上げは減少中。統計データに表れていない経済の縮小も起きている」と指摘する。
こうした実体経済の悪化は、いずれ株価にも影響を及ぼすというわけだ。
実体経済の悪化や米中対立が今後の株価の懸念材料と見るアナリストも多い(写真:つのだよしお/アフロ)
さらに井出氏が不安視するのは、米国の政情と、米中両国の対立激化だ。
台湾有事、現実味を帯びる?
バイデン次期大統領は巨額の財政支出を表明しているが、一方で議会選挙では下院は民主党が、上院は共和党が過半数を獲得する“ねじれ”が起きるとみられている。仮に期待していたほどの財政支出が実施されない場合、失望売りが出るのは避けられない。
また、コロナ禍で一時かすんだ米中対立だが、再燃すれば、世界同時株安の様相となりかねない。例えば台湾有事。米議会の超党派諮問機関、米中経済安全保障再考委員会(USCC)は20年12月、中国が手段を選ばずに台湾統一に動く可能性があるとして台湾有事に強い警戒感を表明している。
続伸派と崩壊派に割れる市場関係者。両方の可能性を展望するのが野村証券で、21年の株価予想を上限が3万500円、下限を2万4500円と設定している(12月14日時点)。
同社の小高貴久エクイティ・マーケット・ストラテジストは「今の株価水準は決して高過ぎるとは言えない」と指摘。「中国、米国向けの輸出が回復しており、外需主導で経済が上向いている。株高は経済のファンダメンタル(基礎)を反映したもの」と見る。だがその一方で、「新型コロナ感染拡大によるシャットダウン(都市封鎖)などが各地で起きるなど最悪なシナリオに向かえば株価の下落はあり得る」とのスタンスだ。
専門家による21年株価予想の一つの特徴は、為替との関連について言及する声が少なかったこと。円高と株安の連動性がかつてほどなくなってきているうえ、21年の極端な為替変動を予想する声も少なかった。
「日銀がこれ以上の円高・ドル安が進むような金融緩和解除に向けた議論を進めることはないだろう。コロナ禍で日米両国の金融緩和姿勢が続き、米国の景気拡大が鮮明になる中、105~110円前後の緩やかなドル高・円安に戻ると予想する」。こうみるのは野村証券の小高氏だ。
ビットコインは20年12月、一時1万9800ドル台に到達。過去最高値となった(写真:Shutterstock)
仮想通貨はまだ上がる可能性も
むしろ市場からは、動くとすれば暗号資産(仮想通貨)との声が上がる。
20年には、コロナ対策による財政出動や金融緩和政策に伴う「カネ余り」で、ビットコインが12月、一時1万9800ドル台に到達。ドル建てで17年の“バブル期”を超えて過去最高値を更新した。「バブル期のように全ての仮想通貨が上がることはないが、新しい技術の裏付けがあるアルトコインは今後も上がる余地がある」。こう語るのは仮想通貨バブル期でいわゆる“億り人”となった会社員男性A氏だ。
実際、ビットコイン以外の仮想通貨にも年初来高値を更新しているものは多い。ポルカドットやチェインリンクといった、3年前にはほとんど知られていなかった仮想通貨の価格も時価総額の上位に顔をそろえている。
こうした仮想通貨以外の法定通貨の値動きが比較的安定するとすれば、21年の株価を大きく揺さぶるのは結局、コロナ禍の行方次第ということになる。
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