だが、五輪が日本にとってもはや重荷でしかないかというとそんなことはない。コロナ下での五輪開催は、やり方次第では日本の存在感を世界に改めて示す舞台にもなり得るからだ。例えば、最新テクノロジーを駆使して感染防止に成功すれば、“日の丸技術”健在ぶりを海外各国にアピールする格好の場になる。
「できないではなく、どうやったらできるかを皆さんで考えて、どうにかできるという方向に考え方を変えてほしい」。11月8日に開催された、体操の国際大会「友情と絆の大会」の閉会式でこう訴えたのは鉄棒で出場した内村航平選手だ。

五輪の実施競技では新型コロナの感染拡大後、国内で初めて開かれた国際大会。4カ国から30人の選手が参加した。感染を防ぐため、厳戒態勢を敷いた。参加選手は来日前から隔離され、定期的なPCR検査を実施。結果、選手から陽性者が出ることはなかった。
もちろん五輪は約200の国と地域から、1万人以上の選手が参加し、規模は段違いだ。「五輪では同様の態勢までは取れないかもしれないが、技術と工夫次第で一定の隔離状態をつくり出すことは可能」。主催者の国際体操連盟会長でIOC委員も務める渡辺守成氏はこう話す。
観客はどうか。友情と絆の大会では8000席以上のスタンドがある代々木競技場第一体育館に2000人を収容した。入場時は体温の計測などを実施。電子チケットには健康チェックの内容をひも付け、クリアしなければ入場時にエラーが出るようにした。
「五輪でもテクノロジーを活用すれば、より多くの観客を入れることは可能」(渡辺氏)。友情と絆の大会では選手に、食品メーカーから提供された免疫力を高めるとされる乳酸菌製品を摂取してもらった。また、スタートアップ企業の協力のもと、観客が新型コロナに感染した場合、濃厚接触者にあたる可能性がある他の観客にメッセージアプリ、LINEを通じて通知する仕組みを構築するなど、民間と協力しながら様々な対策を講じた。
「日本の革新力の見本市」となる可能性
政府も、五輪開催時に外国人客を受け入れるため、ウイルスの陰性証明書やビザ、チケット番号、顔写真などを登録するアプリと、接触確認アプリ「COCOA」を組み合わせて使ってもらい、感染対策と移動の自由の両立を目指す計画だ。
その他、最新空調技術や建築デザインなども総動員し、同様の取り組みを国内の観客にも徹底できれば、定期的なPCR検査やワクチンの登場に頼らずとも、街中よりも会場内の感染リスクが低いという状態がつくれる可能性はある。そうなれば、五輪は、日本の技術や発想力、革新力の見本市になる。
こうした取り組みを通じ、外国人客を含め観客を多数招きながら感染拡大を防げれば、コロナ禍で打撃を受けた様々な産業の復興にもつながる。国内だけで8000億円超に上るスポーツ観戦市場、約6000億円規模の音楽やミュージカルなどのライブエンタメ市場、さらには関連消費額が年間20兆円以上に上る観光ビジネスに、ノウハウをそのまま移転できるからだ。
やってもやめても「負のレガシー」になりかねない東京五輪。だがそれは日本経済底打ちの起爆剤となる可能性も秘めている。
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