「そもそも五輪に限らず国際大会はただでさえセキュリティーが厳しく、通常時でもどうスムーズに観客を入場させるかは大きな課題」(A氏)。テロ対策などを理由に入念な手荷物検査やボディーチェックが実施されるためだ。

 そこにコロナ禍が加われば、検温や手指消毒なども必要になる。メイン会場の国立競技場は、五輪開催時の最大収容人数が約6万8000人。検温や手指消毒に1人10秒かかるとすれば、延べ190時間が余計にかかる計算となる。

 さらに「真夏に屋外で検温をすれば、実態よりも高く体温が出る可能性もある」(A氏)。非接触型の体温計は皮膚の表面温度を計測する場合が多い。炎天下の中で検温すれば、実際に発熱はしていなくとも、高温が検知されてしまう可能性がある。次々に発熱者が検知され、入り口が大混乱となりかねない。

 また、炎天下の中、マスクを着けた状態で長蛇の入場待機列が発生すると、かねて指摘されてきた熱中症のリスクも高まる。

五輪ほどの国際大会であれば警備などに万全を期す必要があり、スムーズに大会を運営できるかが課題だ(写真:Shutterstock)
五輪ほどの国際大会であれば警備などに万全を期す必要があり、スムーズに大会を運営できるかが課題だ(写真:Shutterstock)

「行くも地獄、退くも地獄」としか思えぬ状況

 では、観客を大きく減らせばいいかというと、それはそれで別の課題がある。まず販売済みのチケットをどう「間引く」かだ。

 仮に、20年のプロ野球などのスポーツイベントに準じて、収容人数の5割までに観客数を制限したとする。機械的に半分のチケットをキャンセルにできればよいが、実際には1人で来場する観客もいればグループで観戦しようとチケットを確保した人もいる。様々な事情を考慮しながら半ば手作業で間引く必要がある。一度全てキャンセルし、改めて販売し直す手も考えられるが、返金作業などに莫大な労力とコストが必要になるため現実的ではない。

 ならば、いっそのこと無観客開催にするのはどうか。入場時の課題はなくなり、感染リスクも抑えられ、経費も大幅に削減できる。

 ただ当然のことながら、観客を減らせば経済効果は目減りする。関西大の宮本氏の試算では、観客数を従来の50%に制限することで、経済効果は7000億円弱、追加で失われるという。無観客開催になれば、その額はさらに大きくなる。

 観客の有無に左右されにくい放映権収入を重視するIOCはまだしも、900億円にも上るはずだったチケット売り上げを失う組織委や経済波及効果に期待を寄せる都・国は無観客開催を許容できないだろう。

 一見する限り、「行くも地獄、退くも地獄」という状態に陥っているとしか思えない五輪。「個人的には中止、再延期もやむを得ない」と打ち明ける関係者も増えている。

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