今から約1年前の2019年12月31日。いつもと変わらぬ大みそかを迎えていた日本にその外電が伝わった時、事態の深刻さを見抜けた人はいったい何人いただろう。

■「中国で原因不明の肺炎相次ぐ――武漢で27人発症、政府が調査」
 中国湖北省武漢市当局は31日、市内の医療機関で27人がウイルス性肺炎を発症したと発表した。感染源など詳しい原因は不明で、中国政府は感染状況を把握するため、専門チームを現場に派遣。発症の疑いがあれば報告するよう医療機関に求めている。(共同通信)

 この日の日本の産業界の話題は昼すぎから、会社法違反(特別背任)の罪などに問われていた日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の「レバノン出国」一色。数カ月後に世界を揺るがすコロナの悪夢の一報に気を留める人は少なかったはずだ。

 むしろ新年を前に企業幹部の頭を占めていたのは「日本経済が五輪後どうなるか」だったに違いない。東京への五輪招致に成功してから6年余り。東日本大震災で深い傷を負った日本が小康状態を保ててこられたのは、五輪というカンフル剤への期待があったからだ。五輪が終わる2020年、日本経済は大きな節目を迎える──。これが多くの人の共通認識だった。

 だが蓋を開けると、20年は節目どころではなくなった。

GDP29兆円消失、個人消費17兆円減少の衝撃

 中国国営中央テレビ(CCTV)が「原因不明の肺炎の患者から新型コロナウイルスが検出された」と報じたのは、20年1月9日。2月には、横浜港のクルーズ船に乗っていた客の罹患(りかん)が確認された。そこから今日に至るまでの大混乱は、多くの人々が体験した通りだ。

 緊急事態宣言に伴う外出自粛などをきっかけに、消費は低迷、企業業績は急激に悪化した。五輪もあえなく延期になった。観光・飲食業では倒産が激増し、地方経済は瓦解寸前に追い込まれつつある。

 その結果、日本の実質国内総生産(GDP)は5.3%のマイナス(IMF=国際通貨基金の10月時点の予測)となる。19年比で計29兆円が失われる計算だ。とりわけ個人消費は外出自粛下の4~6月に激減、1月からの9カ月で計17兆円減った。多くの企業業績がむしばまれ、ここ数年の賃上げムードにも暗雲が垂れ込めた結果、消費の回復は一段と遠のいた。株価こそ好調に見えるが、その源泉は各国政府の財政出動と中央銀行の金融緩和にあり、実体経済を反映しているとは到底、言い難い。

屋形船を運航する舟宿「小松屋」の佐藤勉氏は、コロナ禍でかつてない逆風にさらされ続けた

 戦後最大級の経済激変は、多くの人の人生を狂わせた。

 「ええ、大丈夫です。またいつか、いつか落ち着いたらお越しください」

 新規予約の電話は一向に鳴らない。鳴るのは役所からの問い合わせと、わずかに入っていた予約のキャンセルだけだ。屋形船を運航する東京・東日本橋の舟宿「小松屋」。昭和2年創業の歴史ある船宿は2020年、かつてない逆風にさらされ続けた。

続きを読む 2/3 こだわりの旅行会社、売り上げ9割減