田中伊雅佛具店(京都市)は平安時代の仁和年間(885〜889年)の創業で、仏具の製造販売を手掛けている。1100年以上事業を続けており、製造業では日本屈指の業歴を持つ。寺院用の仏具が大半だが、在家の位牌(いはい)や仏壇なども扱う(登場する企業の創業年などには諸説ある)。

創業1000年を超える企業を紹介している本連載。超長寿企業は旅館などのサービス業が多く、製造業は限られている。日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授は「旅館は温泉という自然資源を守ることで比較的維持しやすいが、製造業は技術の伝承や革新がないと生き残れない。仏具は寺との関係も大切になってくる」と指摘する。
田中伊雅佛具店の本社はJR京都駅から徒歩で20分ほどの市街地にあり、社員は10人ほど。社長を務める田中雅一氏は創業から数えて70代にあたる。68代の祖父、69代の父からの口伝によると、もともとは仁和寺の門前にあり、鋳物で仏具をつくっていた。「鋳物師は芸術家でなく職人だったため、仏具に名を入れることは許されなかった」(田中氏)。火災による焼失などもあり、創業期を伝える資料は残っていない。

はっきりした記録があるのは350年ほど前の江戸時代からだ。当時、納めた寺には今もそのときの仏具が残っている。もともと「伊雅」ではなく「伊賀」だったため、江戸期に納めた仏具には「田中伊賀」の銘が刻まれている。
田中伊雅の史資料調査などを行った静岡文化芸術大学の曽根秀一准教授によると、天保年間と嘉永年間に刊行の『商人買物独案内』に「御室御所(=仁和寺) 真言密教御佛具師 御用所」として「田中伊賀」の名前があり、仁和寺と深く関わってきたことがうかがわれる。当時から福井、徳島など遠方の寺の仏具も手掛けていた。
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