傳來工房は京都市の桂川に近い工業エリアに本社・工場を置き、エクステリア製品や建築用の装飾金物などを手掛ける。同社には平安時代の職人集団「傳來」がルーツだという言い伝えがあり、創業は大同元年(806年)にさかのぼるという。

京都市にある傳來工房本社(写真:宮田昌彦、以下同)
京都市にある傳來工房本社(写真:宮田昌彦、以下同)

 傳來工房によると、同社のルーツは唐にわたった弘法大師が帰国するとき連れ帰った職人集団で、青銅のろう型鋳造を手掛けた「傳來」とされ、約1200年の歴史があるという。ただ、創業期を伝える文物は残っていない。伝わるのはわずかなストーリーだ。

 その後の詳細も不明だが、傳來工房によると、室町時代には本願寺での仕事が主体となったといい、西本願寺には「傳來」の銘が入った品があるという。傳來工房の本社には江戸時代のろう型などが残っている。京都の中でも金属関連の仕事をする人が集まっていた西本願寺近くのエリアで長く仕事をしていたと伝わる。

 ユニークなのは事業の引き継ぎ方だ。「1000年企業」はファミリーで事業をずっと引き継いだとするところが多い。一方、傳來工房の場合、培った技術は一番弟子だけが道具とともに引き継いできたという。現在会長CEO(最高経営責任者)を務める橋本和良氏は「鋳造は長い間、重要な技術であり、技術力が落ちると国力が落ちるため、権力者の承認がないと継げなかった。そこで一番技量の優れた者が職人集団の親方としてすべてを継いできたようだ」と話す。

会長CEOを務める橋本和良氏
会長CEOを務める橋本和良氏

 比較的詳しいストーリーが伝わるのは大正7年(1918年)に橋本氏の祖父が引き継いでからのことだ。祖父によると、祖父の師匠にも息子がいたが傳來に入らず、小唄の師匠になったという。祖父が引き継いでからは橋本氏の父、橋本氏と3代続けて橋本家が事業を引き継いできた。

祖父が明文化した「傳來合言葉」

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