これまで、同調圧力謝罪の流儀の海外比較SNSでの炎上「土下座」や「丸刈り」について論じてきた。今回は、謝罪の新しい潮流について考えてみたい。題材にするのは、今年7月に起きた貨物船「WAKASHIO(わかしお)」の事故だ。「法的責任はない」と認識している商船三井は、なぜ謝罪したのか。

 「新型コロナでただでさえ国外からの観光客がいなくなっているのに、国内からも来なくなった。二重苦だ」

 人口約126万人、面積はほぼ東京都と同じ島国のモーリシャスで、ホテル経営者やエコツーリズム業者らは、こう口をそろえる。

 インド洋のモーリシャス沖で7月25日(現地時間)、長鋪汽船(岡山県笠岡市)所有のばら積み船「WAKASHIO(わかしお)」の座礁事故が発生。8月6日に燃料油が流出し始め、約1000トンが海に流れた。モーリシャスの海岸線約30kmに漂着したとされ、多くの海水浴場が閉鎖され、漁も禁止された。

モーリシャス沖で座礁した長鋪汽船の「WAKASHIO」(写真:ロイター/アフロ)
モーリシャス沖で座礁した長鋪汽船の「WAKASHIO」(写真:ロイター/アフロ)

 事故現場は湿地の保全を定めるラムサール条約に登録された国立公園にも近い。マングローブやサンゴ礁など生態系への影響が懸念されているほか、そうした自然に魅了されて世界中から人が訪れる観光産業への影響も不安視される。観光業や水産業は同国の基幹産業なだけに、流出した燃料油の与える影響への懸念は強い。

 8月下旬には事故を巡って、モーリシャス政府の対応の遅さが被害を拡大したと批判する大規模デモが起きた。市民らは首相や関係閣僚の辞任を求めた。

 こうした中、長鋪汽船という一企業の対応を超えて、日本では国を挙げての支援体制が敷かれている。茂木敏充外務相は9月上旬、モーリシャスの首相に環境の回復だけでなく、経済・社会分野でも協力することを伝えた。独立行政法人国際協力機構(JICA)は3度の国際緊急援助隊の派遣に続いて、10月下旬から調査団を派遣。現地住民への聞き取りやマングローブ、サンゴ礁への影響を調べている。

 12月上旬の状況について、現地で活動する阪口法明・JICA国際協力専門員は「大規模にサンゴ礁が死滅したり、マングローブ林が枯れたりという状況は見られていない。ただ、サンゴ礁には今も堆積物が蓄積しており、油の漂着が見られたマングローブ林も根や土壌表面の洗浄をまさに続けているところ。引き続きモニタリングが必要だ」と語り、注意を継続する必要性を強調する。

 12月には茂木外相がモーリシャスを訪問。日本だけでなく、フランス政府もモーリシャスに専門家を派遣するなどの支援に当たる。

 当然、これほどの規模の事故ともなると、加害者は謝罪会見を開くことになる。

 WAKASHIOを所有する長鋪汽船は、8月8日にリリースを出し事故が起きた事実を伝え、同9日に記者会見を実施。長鋪慶明社長は「多大なご迷惑とご心配をおかけし、心より深くおわび申し上げる」と陳謝し、油の流出防止や漂着した油の回収に取り組む計画を語った。

 ただ、この謝罪会見は、危機管理コンサルタントなど“謝罪のプロ”たちが注目するところとなった。長鋪汽船だけではなく、もう1社、登壇した会社があったからだ。商船三井である。

記者会見で陳謝する商船三井の小野晃彦副社長(中央)、長鋪汽船の長鋪慶明社長(右)ら=8月9日午後、東京都港区(写真:共同通信)
記者会見で陳謝する商船三井の小野晃彦副社長(中央)、長鋪汽船の長鋪慶明社長(右)ら=8月9日午後、東京都港区(写真:共同通信)

 「これは、新しい会見の流れになるのかもしれない」

 ある危機管理コンサルタントは、この会見を見てこう口にした。

 商船三井は、長鋪汽船から船を借り、荷物を付けて輸送する指令を出す「定期用船者」に当たる。船を所有し、乗組員を乗船させて運航するのは船主である長鋪汽船。一般的に、船舶事故の場合は船主が責任を負い、事故への賠償責任の費用をカバーするP&I保険(船主責任保険)は船主が加入している。

 法的責任を一義的に負うのは長鋪汽船。だが、謝罪会見の開催場所は東京・港区の商船三井本社の会議室。「まるで、商船三井が謝罪会見を開いているかのようだった」(ある危機管理コンサルタント)。

 そして、長鋪汽船の社長と共に登壇した商船三井の小野晃彦副社長は、こう謝罪の意を示したのである。

 「モーリシャスをはじめ、関係者にご迷惑をお掛けしていることを誠に深くおわび申し上げる」

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